第6話 外からがダメなら、中からにすればいい
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まるで、影の対象を導くかのようにイキシアと影の周りからは霧がすすすっと消えていった。
その姿が露になる。
尾は蛇で、手足にはトラ柄の模様が入っている。体は狸のようで、頭は犬だ。最後の一つ以外が猿であれば、完璧に鵺だったのだが、案外これもありかもしれないというくらいバランスが整っていて、完成されていた。
大きさは大人の熊より5倍くらい大きく、体調は10m、高さは5mくらいだ。
「うん? 其方は聖女でないか。まずは永遠の目覚めから呼び覚ました労いだ。あっぱれじゃった」
その視線はしっかりとベリーの方を向いている。
「さぁ、何のことでしょうか?」
しかし、ベリーは暗に違うと言う。単なる人違いなのか、何か隠したい理由があるのか。
「聖女だったら、何か関係があるのか?」
「ぼんくらか。仕方ないのう。妾は今機嫌が良いから特別じゃぞ。聖女と言うのは、魔王からぼんくらどもを守る称号じゃ。それだけでは妾の封印は解けぬ。じゃが、この娘は大きな呪いを背負っておる。大きな呪いは呪いを引き寄せ、吸い取る。この封印も呪いの一種じゃったということじゃ。」
「そうなんですか。それでここを通してくれませんか。すぐに立ち去るので」
「ふむ。それはできん話じゃ。起こしたからには最後まで準備運動は手伝ってもらうぞよ。」
「もうやっぱ、シアンのせいじゃん!」
「いや、それは違うだろ」
鵺の頭の上の画面に、ヌエルという名前と100というレベルが表示される。
───カンストがあるか分からないが、その領域じゃないか。最初からラスボスと当たるとか、熱いな。
イキシアは地面を思いっきり蹴り、駆けだす。後に、ロー、リリス、ベリー、アスターと続く。
ヌエルはブレスを吐くため口を開け、炎の渦を段々大きくさせている。
すかさず、イキシアたちはヌエルを駆け上り、ヌエルの歯に手をかけ、口内に侵入する。最後のベリー、アスターの順番になると、ブレスを近距離被弾しかねなかった。しかし、アスターが《トラビッド・フロー》を使い、ブレスを一部分だけ中和した。そのため、2人はずぶ濡れになったものの、焦げてはいない。
どうせ、この後べちゃべちゃになるため、そういうことは気にしても仕方がない。
「うおっ」
「キヤァァァー」
「よいしょっと」
イキシアは食べ物と判断され、食道に流されそうになっているローとリリスを助ける。ベリーはアスターが抱えていたが、2人とも余裕そうに───とまではいかないが、きちんとイキシアの隣に来た。
「さぁ、早く行かないと。ヌエルの手がここに突っ込まれて、潰されるか、外に放り出されるぞ。」
「説明は?」
「そうだよ! って言うか、初手いきなりブレスすれすれで口の中に身を投げ出すってどういう神経してるの? 意味が分からないよ‼」
「アスター、先導お願いできる? ベリーは俺が見とくから」
「はい。任せてください」
「えっ、無視?」
「大胆なプレイするのは嫌いではないが…」
アスターが気管支を〈ロック・ストーン〉を使って、人間の頭くらいのサイズの岩でゴリゴリと無理やり広げていく。床が揺らぐ。痛みがあるらしい。効果てきめんのようだ。
「ヌエルの手が来たな」
「えっ?」
「はっ?」
イキシアは2人の背中をトンと押し出した。2人の断末魔が聞こえるころ、手が先ほど4人がいた場所を破壊していく。おそらく、これからの損害を考えると、自分の体を痛めつけることも気にならないくらい、焦っているのだろう。
「どうされますか? このままでは死んでしまいますよ」
イキシアはちょこまかと動くことで場所を特定されないように気をつけてはいたものの、ヌエルの手が大きく、すぐにここも退路をふさがれるだろう。
「分かってる。口を閉じて」
イキシアはベリーをバスケットボールのように持ち、痛んだ気管支に投げる。それは寸分の狂いなく、そこに吸い込まれた。
「ふぅー」
イキシアは深く息を吸い込み、息をゆっくりと吐いた。
そして、力強く床を蹴ると、ヌエルの手が一気にこちらに来る。そのギリギリで、背面跳びをする。イキシアは後ろに体を捻りながら、その手の最高点スレスレで体を反り、天井に足が着くと思いっきり蹴る。そして、先ほどと同じように華麗に気管支の中に落ちていった。
思いの外、気管支は床までの深さがあり、このままだとこちらにもダメージが入ってしまいそうだ。
すると、アスターたちが手を振っていた。どうやら、アスターが魔法で何とかしてくれたらしい。たくましい限りだ。
「〈グラビティ・リバース〉」
「ありがと。」
「流石に、わたくしも死ぬかと思いましたね。」
「うーん。もう何か疲れたね。」
「ヤバいと思ったが、案外いけるな」
「アスタ、せっかくだし、最高火力で最後やろうか。ベリーも知り合い───じゃないみたいだしな。」
「分かりました!」
アスターの手から3つの一際、大きな魔法陣が現れる。その魔法陣には細部まで模様が細かく書かれていて、その周囲には神々しい光の粒子のようなものが舞っている。
「ディエディー・ホーリー・インター……」
───ちょっ、ちょっと、待つのじゃ!
どこからともなく───いや、脳内か───から、声が聞こえる。おそらく、何かのスキルを使っているのだろう。
───降参じゃ。妾の負けじゃ。ここは通すし、其方らの奮闘に敬意を示し、要求も呑もう。じゃから、どうか矛をしまってくれぬか。
「俺たちに協力すること。それが俺たちの要求だ。勿論、それ相応の対価は用意する。」
軽く皆を見渡すが異論や質問はないようだ。
───対価はいいが、協力は具体的に何をするんじゃ?
「そうだな。情報提供とか、レベル上げの手伝いとしてモンスターを捕まえてきてもらったりとか、後は───」
「───君は今日から足だ」