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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第三章:学園
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第31話 そんなのありに決まってるね、です!(オウノム視点)

◆◆◆


 今、目の前にいるこの男。燕尾服を着て、片手にサヴァンを持って給仕をしている男こそが、セクロム家のメイドだ。


 ちょっ、早とちりするな。消せ、今すぐ、そのイメージを。

 ふぅ。この男は男ではない。いや男だし、メイドではあるんだが、違う。そうじゃないんだ。

 この男は種族的には本来、両性なのだ。そして、この男───いや、メインの性別は女性だから彼女ね───彼女は今は男性形態をとっているというだけだ。

 だから、彼女はレッキとしたセクロム家のメイドだ。


「貴方だったのね、ブラッド。貴方はこれからもフットマンなの?」

「いえ。私は今、一時的にこの姿をお借りしているだけで、普段は外国語教師ですよ。だから、サルバドル先生とお呼びください」

「さっきはごめんなさい。それといつものジュースとても美味しかったわ」

「それはそれは光栄です。坊っちゃんには私が毒見したジュースをあらかじめ、お渡ししてあります。勿論、オウノム様のものも。ですので、ご心配なく」

 では。そう言ってブラッドは戻って行った。



 私は周りを改めて見回す。


 そう言えば、勇者全然出てこないなぁ。まだ、アーディが13だからかな? ゲームの方はあんまり時系列がはっきりとしてなかったから、分かりにくい。

 出てこないほうがいいのかと言えば、そうでもない。なぜなら、勇者の本質とは、異常では片付けられないほどの成長速度と主人公補正《運の強さ》だからだ。

 それゆえ、出てくれば、目の届く範囲にいるから手綱は握りやすいが、その分こちらに合わせて成長しやすくなってしまう。出てこなければ、何をしでかすか分からない怖さはあるが、こちらの手札もバレなければ、ある程度ここでの自由も利く。


 まあどちらにしろ、厄介なのは間違いないというわけだ。





◆◆◆


「オウノム、久しぶりだな」

 あぁ、折れそうなほど細い足に、まっすぐな棒線を描く口角。

「うん。アーディ、久しぶり。彼も来てたんだね」

「今回は仕事だからな。来るなって言ったのにお前も付いてくるなんて」

 口ではそう言って、むっとした顔をするが、それが私のためを思ってくれていると思うと、無性にニヤニヤしてしまいたくなる。

「危ないって言ったのに」

「それで今回の仕事は?」

「言わん。首を突っ込むなよ。絶対に、だ」

 今回は念押しが強い。余程、警戒しているようだ。

「うん。分かった」

 だが、念押しされれば気になるというのが人間のさが。邪魔をしない程度につついてみよう。


「それで、今日の朝、遅刻しかけたようだな」

「ギクリ。ど、どうして、それを…。ってあ、せんせから聞いたのね」

「しかも、カチューシャを口に咥えながら走ってきて、途中から新しく入ってきた寮監に抱かれてたそうじゃないか。」

「あ、ヤキモチ焼いてくれるの?」

「…バカか、お前は。何があったんだと言っている」

「…あー。ちょっとね。昨日の夜、眠れなかったの」

 昨日、やっと調べさせてたネストール学園の関係者たちの履歴書ができた。そのため、それを洗っていて今日は2時間ほどしか眠れていないのだ。それは、私が知るゲーム「ラグナロク」のシナリオを照らし合わせて事前に情報を知っておくためだ。

 ただ、そんなことは言えないため、嘘ではないが適当に誤魔化しておく。

「それよりも、アーディはどの科目を受けるの?」

われは魔法基礎、魔法実技、護身術、ダンス、外国語だ」

「かなり偏ってるね」

「まあ、数学やら国語やらの大体はもう既にみっちりと奴に叩き込まれてるからな。外国語は浅く広くしかやれていないが、後は身を守る術だ。こっちは今まで余裕がなかったのもあって、奴に今まで任せっきりだったからな」

「ダンスは?」

「…奴は我のダンスが不様で見ていられないらしい」

 アーディは、苦虫を噛み潰したような顔で不満げにそう言った。おそらく、アーディの身長の低さや運動が苦手なのもあるのだろう。

「お前は?」

「私は数学に外国語、歴史に理科、双剣術、戦術」

「いや、お前も我のことを言えないだろう」

「だって、小さい頃はマナーと剣術ばかりやってたもん」


「それで、もう他の生徒への挨拶は済ませたんだろうな」

「勿論、終わったわ。ここは、殿下や由緒正しき貴族ばかりが集まる、帝国随一の名門校デュエル学院ほどじゃない。でも、ここも帝国の数ある名門校の1つ。皇族に実力派の新貴族や大商人の子どもたちのコネクション作りの場、つまり社交界。左腕様のお嫁さんになる私にとって、ここは裏表関係なくパイプを作るための絶好の機会でしょ?」

 そうアーディは辺境伯、私は伯爵家の分家なのだから、パーティーなどにも勿論出席する。アーディはそういうのが嫌い故に、領主としての仕事が忙しいとかで逃げてしまう場合がほとんどだが。それでもきちんと出るべきところには出て、貴族としての役目を果たしている。

「ふん。もうそろそろ、寮の案内がされる。寮の部屋割りも、そこで決まるだろう。もう他の女子たちのところに戻れ」

「うん。アーディも気をつけてね!」

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