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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第二章:天変地異
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第26話 天真爛漫なショタに謎が多すぎる件

◆◆◆


 約束通りの時間の行くと、そこには青年と青年に抱えられた少年の2人がいた。

 少年の方は黒いショートパンツと胸元にレースをあしらったリボン付きの白いブラウスを着ている。明るく濃いえんじ色の瞳に、薄い小豆色の後ろ髪を三つ編みにしている。そのためか、ノアとはまた違ったふうに少女にも少年にも見える。青年の方は、騎士のような服を着ており、金髪の髪に赤の瞳をしている。

「よく来たね。依頼達成おめでとう。僕からもお礼を言うね」

「これが報酬となっています」

 今はベリーの代わりにアスターが、その膨らんだ袋を受け取る。

「ありがとうございます」

 前回の時のように、ベリーに任せることができたら良かったのだが、いないのに言っても仕方ない。ベリーであれば、この世界の住人で多少なりとも教養を身に着けているため、イキシアたちよりかは幾分マシだろう。しかも、なぜかそこら辺の知識も豊富なようだし。詮索はしないが、使えるものは使わせてもらっていたのだ。


 バーの照明の光に照らされて、上品な色に彩られた封蝋は鴉をモチーフにした印だった。

「ファラエル、手紙の封を切ってもらえる?」

「はい、兄様」

 この青年───ファラエルと言うらしい───は少年のことを兄として扱っているようだ。いや、使用人にも近いが。内包される魔力が膨大すぎてそれが成長を妨げるとか、そう言った病気でもあるのだろうか。これもベリーがいないから、予想しか立てられないな。

「複合魔法? これはっ! 僕は魔術の方を研究しているから、魔法の方は専門外だけど、これは凄い!!」

 少年はキラキラさせた目でこちらを捉えると、ファラエルの手をすり抜けて、勢いよくこちらに飛んできた。そして、肩をガクガクと揺さぶる───

「あっ」

 ───ことにはならなかった。そうするつもり、いやそうなる予定だったのだろうが、バランスを崩してしまったのだ。

 イキシアは少年に手を伸ばすが、途中でやめた。なぜなら、その必要はないと悟ったからだ。少年が地に伏す前にファラエルが少年の手を取り、少年を抱え直す。

「兄様、危ないですよ。気をつけてくださいね」

 なるほど足が小さいと思っていたが、やはり纏足にされていたらしい。やんごとなき身分かと思ったが、訳アリのようだ。

「あ、うん。ごめん。シアン君もごめんね」

 イキシアはその言葉に目を細める。前回は顔も隠していたし、名前もこの2人の前では仲間から呼ばれていないし、勿論、名前も告げていない。しかし、バレていたようだ。しかも、ギルドに登録した「イキシア」の方ならまだしもあだ名の方でだ。

「あ、イキシア君のほうが…ううん。シアンさんって言ったほうが…」

「いや、何でもありません。シアン、呼び捨てで大丈夫です」

「そう? じゃあ、よろしくね。それで、そっちも聞きたいんだけど…。」



「ファラエル」

「はい。来週、帝国でも有数の名門校、ネストール学園の入学試験が行われます。兄様と私はそこに入学する予定です。そこでイキシアさんたちにも、入学してもらいたいのですが、どうでしょうか?」

「すみません。仲間の中には見ての通り、成人している人もいるんですが…」

「その場合、教師も同じようにその入学試験の前日に採用試験があるため、教師としてどうでしょうか?」

「そ、そっか。そうですね」

「しかし、その名門校の教師となれば、後ろ盾が必要なはずですが、私たちはありません。」

「いえ、それを心配する必要はありません。こちらに任せてもらえれば大丈夫です。」

 中々の高待遇だ。2人には嘘の気配はない。少年の方は何かを企んでいるようには見えないが、ファラエルの方は別だ。本当に見た目通りとは到底思えない。それに、少年の方も何も企んでいないとは言い切れない。

「私たちは昼間は少し用事がある場合が多いのですが」

 それもそうだ。イキシアたちにはリアルがある。学校がある平日の昼間はまずまずこのゲーム(カオス)にいない。普通のゲームであれば、昼夜逆転を無条件にできたり、プレイヤーだけは特別待遇だったりするのだろうが、運営のことだ。そんなものがない可能性は十分あるだろう。

「生徒の場合は入学試験と定期試験の成績によっては授業は免除されることもあります。それならば、定期試験を受ければ問題ありません。教師の場合は寮監として働けばいいと思いますよ。寮監は一般的な教師と違い、」

「実力的にもシアン君たちなら、心配していないんだ。」

 ただ、帝国でも有数の名門校、それもイキシアであれば教師になるだろう。そんな機会はそうそうない。授業にも興味はあるし、大きな図書館もあるだろう。それも美味しい。何せ、この世界では紙が高価ゆえに本を読めるところは限られてくる。何か特殊イベントが発生するかもしれない。しかも魔術を研究しているやんごとなき身分の方とお近づきになれると。


〈どうしますか?〉

〈私はパスかな。プロゲーマーだから、ある程度融通は利くけど、正直あんま興味はないかな。聞く感じ、異業種はいないみたいだし、バレたら面倒だからね。まあNPCを早く作りたいってことが一番大きいけどね〉

 ベリルはどうしても異業種とバレやすい。翼があるため、今回もローブを着ている。それはストの羽も同じだが。

〈私も今回は参加できません。私は職業上、不規則になりがちなので。〉

〈俺は参加するです。学園なんて面白いに決まってるです! ベリル姉さんと同じく異業種だけど、あの博士にそういうアーティファクト作ってもらうです〉

 本当は最近借りを作ったばかりで、また借りを作るのは得策ではない。しかし、まあこちらも以前、色を大分つけて対価を支払ったから、軽く済むことを願うか。

〈私も参加希望です。レベル上げにも適していますし、アイテムや武器を作るにも、自分で素材を仕入れるのは難しいので。学園という整った空間で学ぶことはたくさんありそうです〉

〈私も参加します。寮生活とか面白そうですよね〉

〈俺も参加で〉

〈私も参加させてほしいです。学園なんて初めてで、とても楽しみです。どんなところなんでしょうか〉

〈俺も参加するつもりです。いろいろと便利そうですし。では、そうしましょう〉


「おまたせしてしまってすみません」

「ううん。全然大丈夫だよ。僕が突然、言い出したことだからね」

「私イキシアとアスター、アマリリス、ローダンセ、スト、それにファイブロライトの6名でお願いします。」

「分かりました。手続きをしておくので、また後ほど手紙を送りますね」


「あー、そうでした。実は今、学園で不可解な事件が起こっています。何か分かれば伝えますが、《《報告漏れ》》があるかもしれませんし、気をつけてくださいね」

 ファラエルはそう言って、穏やかに微笑んだ。なるほど、塔をイキシアたちを手に入れて、それを報告していないのはバレているようだ。ファラエルたちの耳の早さには驚かされる。

 この情報を今更言われたのは、その意趣返しなのだろう。

「あ、忘れていたね。でも、すぐ解決するに決まってるから、心配しなくていいよ」

「そうですか。忠告、ありがとうございます」


「シアン君たちも名乗ってくれたし、僕達も名乗らないとね。僕はインセントだよ」

 インセントがニッコリと眩しい笑顔を向けてきた。

「私も改めて、ファラエルと言います」

「よろしくね」

「よろしくお願いしますね」

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