第25話 早く帰ってこないかな、ベリー
◆◆◆
「あっ、確かにそうだったね」
「イキシアさんの言うとおりだと思います。ベリーさんが不在の今、テイムしたモンスターにお留守番をしてもらうというのはできません。」
「備え付けの防衛システムを探してみるか」
「ちょっと待って、シアン」
「何だ?」
「さっきのギルド武器で知ったのはそれだけじゃなくて、そのシステムなんだけど…」
───ゴゴゴゴゴッ
突如現れたのは菩薩だ。と言っても、背景に設えられた装飾が髪に見えて、お団子ヘアの女神のようにも見える。
ただ、その穏やかな顔の割に、なんて危険な効果なんだ。
「な、何っ?」
「こ、これです。とても強力だけど、敵味方の区別がつかないし、起動中は膨大な魔力を消費します。元々の与えられている魔力が底をつくと、この塔を維持するための魔力からも消費されるようです。」
「つまり…」
「これを今すぐ止めないと、この塔───ギルド拠点が消滅します!」
「停止するにはどうしたらいいのかなです?」
「あの祠にある護符で、あの観音様の目を完成させればいいそうです、よ?」
「はっ?」
「これ、しかもこの塔の門を潜るたびに、起動しちゃうらしいです!?」
「へぇー、ここに来て美術のテストか、です。俺の十八番はもらったよです」
ニヤリと悪い顔をしたストは素早く駆けていくが、近接戦闘専門でありながらも、レベルが追いついておらず、全員でフォローしてもなお、防戦一方だ。
「あー、もう動かないでって、ですです!!」
「ここは私に任せてください」
見かねたアスターが少しずつだが、亀のような歩みのストよりは確実に早く、目を完成させた。
「これはまた…」
「…凄いものが完成したよね」
その目は、まるで協会の大聖堂のど真ん中に飾られる女神の絵画のような、それはもう完全完璧、素晴らしいできだ。なのだが、一つ、ただ一つだけ、大問題がある。
それは菩薩が、日本風な顔をした女神だったからだ。つまるところ、目とその他の部分が一致しておらず、違和感をかなり感じるのだ。しかも、その違和感の感じが、まるで───
「こんなのホラー映画だよです。いい? アスタちゃん。一流の絵師とはその時々の全ての条件を考慮できてのものなんだです。だから───」
「始まっちゃったね」
「これいつもなの?」
「いえ、たまに絵の話になるとこうなるんです」
「いや、それをいつもというんじゃない。あ、この上の階には玉座の間があるみたいね。先に、行っちゃいましょ。」
立派な横幅の広い階段を上ると、そのずっと奥には玉座があった。それもかなりたくさんだ。13個か。シリウスたちが使っていたのだろうか。
「もしかして、シリウスは部下だけじゃなくて、対等な地位の仲間もいるのか?」
だとしたら、さらに恐ろしい話だ。あの化け物が、まだこんなにもいるなんて。
「ここで写真を取りませんか?」
「そうしよう! シアン、ストさんを呼んできて。」
「あ、そうだ。せっかくだし、おめかししよっか。シアン君、しばらく入ってきちゃだめだからね」
「分かりました」
◆◆◆
「できたよ、シアン!」
そこには、稀代の王が来ていそうな艷やかな赤に白のもこもこがオシャレにつけられているマントを着て、小ぶりながらも巧緻な王冠を頭の右側に乗せている。服はローブで、髪型も少し整えただけだが、似合っていた。
「似合ってるな」
この王冠はイキシアも似たようなものを持っていて、ノアの実験協力ということで渡された、実験対象のアーティファクトだ。
取引のときに複合魔法を条件付きとは言え、詳細まで明かしたのだ。そんなこんなで釘を刺しているため、重大な危険を抱えるものではないだろう。それにノアは言ったのだ。パトロンになりたいという言葉に、「今のパトロンよりも私にとって価値がある存在になってくれたら、その時ね」と。少なくとも、あちらもすぐにこちらを捨てる気はないようだ。
「えへへ。ありがとう。シアンもほら王冠乗せて、このマントもアスタが作ってくれたんだ。」
差し出されたのはリリスのものと同じ赤だが、リリスのリボンが着いていて真ん中でポンチョのような閉じる形ではなく、リボンもなく、控えめに刺繍がされていて開いた形だった。
「はい。じゃあ、行くよ。ハイチーズ!」
ただ、思ったよりもマントを綺麗に見栄よく、羽織るのは少し骨が折れた。最近はベリーが身なりは整えてくれていたからだ。
ベリーはどこにリスポーンするのだろうか。この塔だろうか、それとも前に眠った宿屋だろうか。迎えに行かなくても帰ってきそうなものだが、リスポーンしたら、すぐに迎えに行かないとな。
◆◆◆
「兄様、学園の卒業式がつい、先日終わりました。来週は入学試験ですが、私に任せずに自ら来られて良かったのですか?」
カウンターに出されたジュースを手に取ると、少年に渡す。
「僕はあの子たちに興味があるんだ! 今晩にも、学園に誘ってみようね。」
「唐突ですね。どうされたのですか?」
「今年はアーディ君も来るんだよね? そこに、あの子たちが加われば、どうなるのかな。楽しみだよねー。それに…新しい芽を摘み取ってしまった輩にはきちんと躾をしないと、ね」
「兄様が目星をつけていた者を含め、数人の生徒が錯乱状態。そのうちの大半は表向きは優秀でも、裏に返せば黒とされているようです。賄賂、殺人、放火。しかし、おかしいですね」
「そう。シンセリーがやったということになってるけど、そんなはずがない。あれをやったのは僕らなんだからね」
「しかし、もうお父様が薬物検査や聞き取り調査を始めているとは早いですね。これは確実に前々から心当たりがあり、確証があったに違いないでしょう。」
「怪しいことこの上ないよね。でも、今回は皇帝陛下の左腕が動くんだ。僕らの出番は滅多なことではあるはずがないんだ。気楽に行こうね。」
「それでノアさんからの手紙は?」
「ここにありますよ」
「うん、あるならいいんだ。すぐに開けられるようにしておいてね」




