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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第二章:天変地異
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第21話 食えないご当主様は逆ハーです

◆◆◆


「始めまして。私はリヴァイアサン現当主、ジュエよ。よろしく」

「ご、ご当主様。いけません。こんなどこの馬の骨とも分からない者の前に御身が姿を見せるなど…」

「結構よ。見る限り、そこまで重症ではないと思うけれど、あなたは僕たちの手当をしなさい。」

「…御意、お前変な真似はするなよ」

 少し不服そうながらも、了承の返事をした2番目は去っていった。


───パンパン

 ジュエがヒレ同士で叩くと、先程と同じような僕達が2匹出てきた。

「茶菓子といつものを用意しなさい」

 ジュエが指示を下すと、2匹はすぐに去っていった。イキシアがそれを止めなかったのは、異業種である人造人間も飲食が不要というだけで食べられないことはないからだ。

「自己紹介は不要ですかね?」

「そうね。要らないわ」

「やはり、試していたんですね」

「私に誠意を見せるためだけに、1度死亡するなんて随分と無茶なことをしたわね。」

「そうでもなければ、ご当主様の興味は惹けないでしょう?」

「ジュエでいいわよ。そうね。それもそう」

「ところで───

あなた弱いんでしょう?」

「…へぇ〜。どうしてそう思うの?」

「大天使。私が大天使の手のものだと思われていたのでしょう。であれば、過去に負けたようですし、最初から全力で総力戦をするでしょう。そこにジュエ様が入らなかったということは、つまり総力戦にジュエ様は戦力として数えられていない」

「私は大天使の手のものだと思わなかったと言ったら?」

「そうだとしても同じです。ノア様から連絡はなかったはずですから。これは私たち両方に対する抜き打ちテスト、しかもこれは頻繁にやっているわけではない、ということはつまりそういうことです。」

「そうね。でも、私は部下と僕達、どちらからも強いと言われているわ。それについてはどうするのかしら?」

「そんなもの生贄等を使えばどうとでもなるのでは、ジュエ様の血と地位、祭壇さえあれば」

 前者は確信に近いが、後者はかなりメタ読みが入ってきてしまっている。後者は少し外れているかもしれないな。

「中々やるやるようね」

 鎌をかけるくらい気持ちだったが、存外当たったらしい。


 ここで、僕の2匹が茶菓子と机に椅子、そしてチェス盤のようなものを持ってきた。

「茶菓子か」

「どうしたのかしら?お気に召さない?」

「いえ、そうではありません。茶菓子の材料はなんですか?」

「普通だったと思うけれど…アー、教えなさい」

「ハイ。オチャハ、ナガオバネヲ、ツカッテオリマス。カシハ…」

 ナガオバネというのは、インターネットのサイト「高級素材一覧」に入っていたはずだ。かなりスリムな海藻のような写真だったため、この茶菓子も海にある素材で作られているのだろう。

「かなりいいものを使っているようですね」

「分かるのね。流石、イキシアよ。さあ、右と左どちらがいいかしら?」

「左で」

「じゃあ、イキシアは青の駒ね。最初は私からよ」

 ジュエが赤の駒を動かす。

「ジュエ様の能力をもってすれば、愚直な部下や僕達を丸め込むこともできたでしょう?」

「どうして私がそんなことをしなくちゃいけないのかしら? 他の代案も複数あったけれど、わざわざ労力をかける必要を感じないわ。それなら、暴力で片付けたほうが後腐れもなくて、部下に任せるだけでおしまい。こちらのほうが簡単でしょう?」

 部下や僕達のなんと可愛いことか。目の前で鋭い歯を見せて笑うジュエの生意気さが目立つ。

「ゲームをしているのはなぜでしょう?」

「ゲームはもう既にここに来たときから始まっていた。そうでしょう? ゲームはいいわよね。私の一番の特技だし…」

「現実を忘れられるから、そうですよね?」

「どういうことかしら?」

「周りから期待と大天使の被害者を忘れられるからということです。教えてくれませんか?」

「…それはこのゲームでイキシアが勝ったらよ」

「そうですか。これは負けられませんね」


 そうして、ただ駒が盤上を叩く音だけが響き続けた。


「チェックメイト」

 そして、ついに最後のコールを静かに告げた。

「見事なものね。話術といい、心理戦といい。チェスで負けたのは初めてだわ」

 何でもないことかのような口ぶりだが、内心は酷く悔しがっているに違いない。


 ジュエは手を持つ僕にカップを口に近づけさせ、喉を潤す。カップの場合、下から持ち上げることになるため、美しくないと思ったのだろう。

「そうね。今から200年と少し前のことよ。大天使がこの砦に攻めてきたわ。私たちリヴァイアサンは精霊だけれどね、先祖は天使なのよ。数百年に1人くらい私たちの中に先祖返りの子が生まれるわ。天使のね。」

「その子を狙ってということですか」

 こくりと頷くと、ジュエはヒレで器用にクッキーを摘み、その鋭い歯で噛みつく。クッキーは割れ、欠片がポロポロとテーブルに落ちた。その欠片を見つめる。

「天使にとって大天使は絶対。ただ、あくまで先祖返りだからかしら。ある程度、体の自由は効くようなのよ。だから、その子が大天使のもとに行きたがらず、ここが戦場になったの。ただ、大天使に叶うわけもなく、その子は連れ去られた。」

「何も面白くない話でしょう」

 存外、人間味があるようだ。一応はジュエも、可愛いの代名詞の海の動物なのだろう。

「いえ、とても面白かったです」

「ふふっ、イキシアって変な人よね。そこはもっと気の利かせた返事をするものだわ。」

 前言撤回。頭がキレすぎて間違った捉え方をしている。ただ、ゲーム上、貴重な情報が得られて良かったと言っただけなのだが。頭が回りすぎるというのも困りものだ。

「変に憐れむよりもいいでしょう?」

 しかし、そちらの捉え方も都合がいいため、利用させてもらおう。

「そうね。あの子も面白がってくれるほうが喜ぶんじゃないかしら」

 ジュエは残りのクッキーを口の中に放り込む。そして、欠片は僕達が片付けた。


  それからは「あの子」との思い出話が始まった。

「あの子はね。私とイー───さっき戦っていた部下ね───の最初の子どもなの。僕達との子どもはどうしても僕達に似て短寿命だけれど、あの子は私たちと一緒で四百年くらい生きるはずよ。だから、そうね。私が死ぬまでに会いたいわ。私はここから出ることはできないから、叶うはずもない夢でしょうけれどね。」

 すごくいい話みたいな流れだったが、要するにご当主様は逆ハーレムらしかった。

 ここに1人で来たのは、あまりよく知られていないデスペナルティーを警戒してとか、仲間の皆を巻き込みたくなかったからだとか、いろいろあった。だが、今回は1人で来て明らかに正解だ。

 これを知ったら、ローはなんて言うだろうか。

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