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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第二章:天変地異
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第20話 海洋生物は可愛いの代名詞!?(イキシア/2番目視点)

◆◆◆


「お前、もしや大天使の手のものだな! そんなにもここが気に入ったのか。だが、今回こそはお前らの好きにはさせん。」

 龍をベースにした胴には一定の間隔で、手もベタのようなヒラヒラとしているヒレがついている。蒼天から降り注ぐ、光が鱗に反射し、青、薄橙、紫ピンク、白と鮮やかに彩られている。

「ここは、リヴァイアサンの縄張りである。直ちに退け!」

 ひとまず、ノアに教えられた通りの場所に来てみたが、一向に聞く耳を持たない。話が違うと思わなくもないが、これは体の良いイキシアたちを試すための試練と言うことだろう。

「すみません。私はイキシアと申します。あなたがリヴァイアサンの当主様ですか? 梵天の館の主であるノア様からの紹介を受けまして、鱗を少し頂きたいのですが。」

「お前に答える必要はないし、お前にやる鱗も持っていない。しつこいぞ、帰れ」

 どうやら、コイツはトップではないらしい。ただ、その一番大きく美しいのはコイツくらいで、後は2周り程小さく色も灰色で統一になっている。おそらく、上から2番目くらいだろうか。

「どうしたら、当主様と会えますか?」

「あ゛? 当主様はお忙しいんだ。お前ごときが会えるわけないだろ!!」

 おっと、琴線に触れてしまったようだ。まあ何事も前段階が重要だが、それもそろそろ飽きた頃だろう。ここらへんが余興の打ち切り時だ。

「…はぁ〜。もういい、そこまで言うんだったら、追い出すまでだ。お前らやれ!」

「「「「御意」」」」

 イキシアは何もない宙───いや、不可視化された暗器が飛び回る空間を洗練された動きで舞うように回る。その残像は龍を描くようだ。

 あっという間に、20匹は下らないミニ龍を殺さず、ミニ龍同士で雁字搦めにし、無力化した。


「お前、俺らをバカにしてんのか?」

 挑発が効いたのか、後ろで高みの見物をしていた2番目───これからそう呼ぼう───はやっと腰を上げた。少しチョロすぎないだろうか。いや、しかし聞いた話だと、水中の生物はおバカ───ではなかった───素直で可愛げのある性格が多いらしい。現地民の何人かは、スキルの力に頼らずともペットやパートナーとして水中の生物を育てている人もいるんだそう。

 確かに、たまには可愛げのあるキャラも必要だろう。なにせ、このゲームは無理ゲーで可愛げのない、鉄壁なヤツばかりなのだから。


 すると、2番目は少し奥にあった祭壇のようなものに向かった。それは全て青で統一されており、造りも環状の極めてシンプルだ。しかし、一色一色の明度や彩度等が絶妙に分けられていて、趣深く感じられる。

「お前は誇ると良い、俺に本気を出させたことを」

 突然、空がどす黒い雲に覆われ、重苦しく染まる。祭壇とその曇天の間を遮るものは何もない。2番目は一気に空高く上昇し、手に持った、リヴァイアサンの数え切れないほどたくさんの鱗を上に掲げた。それは天に供物を捧げ、祈るようだった。2番目はイキシアを見下ろし、手を振り下ろした。

「そして散れ───〈オルター・ライトニング〉」

 その瞬間、それまでの厚いどんよりとした雲を一瞬で消え去った。一筋と言うにはあまりにも太く力強い、天から差し込む光によって。

 体中を焼く高熱と、ボロボロと崩れていく感覚を自覚した。

 イキシアは塵となって消えた。





◆□◆


 フードの着いたローブを着て───怪しさを感じさせないためだろう。フードは被っていない───両目に包帯を巻いた者が突然、訪ねてきた。ここに招かれざる客が来るなど何十年以来のことだろうか?

 先ほど者と言ったのはオスかメスか分かりにくいためだ。骨格を見るにたぶん男だろうが、髪が長く、体も華奢な方でそのうえ、目隠しもされているため、他のしもべたちは全く判別がつかないだろう。


 ただ、その風体にも関わらず、中々やるようだ。僕達は皆、倒されてしまった。しかも、死亡者ゼロという特大のおまけ付きで。こんなことはここ百年間では久しくなかった。自分たちの種族を馬鹿にされているようで、自分たちの無力さを浮き彫りにされているようで、苛立つ。


 結果、大技を使ってしまい、男は塵となって消えた。その男の顔には薄い笑みがあった。

───あ゛〜。クソが!

───なんで、笑っているんだ。なんで、笑える!? お前は俺に負けたんだぞ! 殺されたんだぞ!? そんなに戦闘狂が極まっているのか!

 あの満足そうな表情が憎らしい。感情的になってオーバーキルした自分の小ささが醜さが突きつけられているようで。

「クソッ」

 収まらないモヤモヤを抱えたまま、踵を返した。



「おや、どこに行くんですか?」

 幻聴が聞こえる。もはや呪いじゃないか。

 だが、気付かないふりをして歩みを進め続ける。

 だが、視界に男がはっきりと映り込んだ。

「あなたは私を追い出せませんでした。であれば、ご当主様に案内する、までは求めませんが、ついて行ってもいいでしょう?」

───まさか!? この短時間で生き返った?

 あり得ない。これは前代未聞だ。寿命以外の病気や怪我で死んだ者は、全員1週間後に生き返る。

「お、お前、さっき死んだんじゃ…」

「勿論、死にました。」

 男はシュルシュルと包帯を解く。

「だったら、何で!?」

 包帯で隠れていた、一つの曇りもない漆黒の双眸がこちらを見据える。

「それは企業秘密ということで」

 男は包帯を引っ掛けた人差し指を口元で立てた。

 意味が分からず、頭を掻きむしる。

「あぁ゙〜」

───どうするんだ?

「ああ。心配はもうしなくてもいいと思いますよ。」

「それはどういう───」

 男は自分の後ろの祭壇を指さした。後ろを振り返る。


 そこには、いつの間に用意したのか分からない青が支配する空間に佇む赤い玉座に鎮座するリヴァイアサンがいた。自分の姿を2周りほど拡大したらそれくらいになるだろう。

 間違いない。この御方こそが、リヴァイアサン現当主───ジュエ様。


「始めまして。私はリヴァイアサン現当主、ジュエよ。よろしく」

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