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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
閑話
13/34

第13話 親の代わりに(蒼 / ?????視点)

◇◇◇


───ピピピッ、ピピピッ。

 目覚ましの音───と見せかけて、仕事の電話がかかってきた。「2:30」という数字が表示されている。

「もしもし」

「やぁ。蒼君、仕事だ。いつも通り、迎えを近くの駐車場まで出しているから、サポーターに詳細は聞いてくれ。幸運を祈ろう」

 先ほどゲームを終えたばかりであまり寝ていないが、いつものことだ。


 霞を起こさないように窓を開け、気配を消すと同時に静かに外に出た。靴は部屋のタンスに一緒に常備している。

 夜のまだ夏になっておらず、少しひんやりと風が、走り続ける蒼の体を冷やしていく。


 しばらくすると、駐車場に止められた車が見え、歩き始めた。

「こんばんは」

 駐車場に止められたごく普通の車のドアを開け、運転席の女性に声を掛けた。

───ヒュン!

 すると、風を切る音が聞こえた。そして、突然出てきた十数人がその車をぐるっと一周囲んだ。

 蒼は真っすぐと車のタイヤに向かう3つの弾丸を拳の中に収める。最後の1つに手を伸ばすが、少し届かない。

 そのとき、サポーターがタイミングを見計らって車を前進させることでタイヤへのダメージを最小限にとどめた。


 サポーターの感情を読み取るに、コイツらを殺す必要はないようだ。

 車が無事に去って行ったのと同時に、蒼は地面を蹴った。一番、距離が近い奴を狙う。

「……」

 黒コートを着る相手のフードの中から顔がちらっと見えた。声には出なかったが、蒼は内心驚いていた。

 その後も数の有利を生かして、見事な連携で粘っていたが、蒼の前では3分も立っていられなかった。

「さて、どうしようか」

 そこには、フードをはがされたツインテールの少女が転がされていた。お察しの通り、馴染みある顔だ。おそらく、姉の復讐あたりだろうか。姉が去年に交通事故で死んでいた。いや、《《そういうことになっていた》》はずだ。

───それにしても、俺とコイツの正体を分かって言っているに違いない。相変わらず、当主は性格が悪い


「お迎えありがとうございます」

 蒼は戻ってきた車に乗る。

とばり様、お疲れさまでした。帷様には泳がせる1人に警告を、そしてその1人がアジトやトップと接触するまでは監視を行ってもらいます。それ以外の人については、こちらで引き取り、尋問させていただきます。」

「分かりました。では、この少女をその1人に。《《全てお任せください》》と、ご当主様にはお伝えください。」

「かしこまりました。では失礼いたします」



◇◇◇


 男は出社する。仕事場につくと、仕事の続きをするとともに、脳の中に展開されるほとんどはそれとは関係のない大量の情報だ。

 その情報は、男がビルの入り口をくぐってから自分の席に着くまでの間に、的確に設置した───と言ってもさり気なく投げて引っ付いた───超小型360度カメラから男の頭に埋め込まれたチップを通して送られるものだ。

 聞こえる社員の会話とカメラから見える書類、全体の雰囲気、これらを総合してこの会社の現状をパズルのように組み立て、創り上げていく。

 男は、大量の情報を即座に処理できる。素質もあったが、できるように訓練された。とは言っても、当たり前だが、脳のほんの一部でしかしていない仕事の続きは全然はかどっていない。

「鈴木さん、相変わらず仕事速いですね」

 しかし、問題はない。《《普段の男》》が男の仕事を片付けてくれているからだ。

 この会社のような大規模な会社になると、二足の草鞋など到底できない。もしできるとしても、そんな人材であれば、わざわざここで二足の草鞋をさせるよりも、別のところで使った方がいい。

 そのため、普段の男は仕事はこれ1つだけだし、給料もいいため、これで飯を食っている。


 そう普段の男は、何一つ変わったことなどない。

───ただ一点、下っ端ではあるが特殊部隊に協力しているという点を除いて。


 昼休みになり、周りがざわざわとしてくると、男は会社を出た。そして、そこから徒歩5分のマンションに戻ると、鍵を開け部屋に入る。

 すると、男は顔に手を当て、そして顔を───いや、もう1つの顔に被せられた顔を破った。もう1つの顔はまだ幼さが残る、顔の整った日本人らしい黒髪黒目の少年の顔だった。

「お疲れ様でした。特尉」



◇◇◇


「……報告は以上です」

「特尉。いいんですか? 後輩なんでしょう?」

 そう言うのは、見た目がクールで排他的にも見えてしまう上に、近寄りがたい雰囲気を放っているという裏腹の丁寧で親しみを感じるような口調の男だ。

 しかし、その内に無意識にはらまれる苛烈さ、仕事中の容赦のなさ。

 まさに、その男こそが蒼の上司だった。

「はい。全てお任せくださいと、答えたのは他ならぬ私です」

「ほどほどにしておかないと、壊れてしまいます。強がりすぎてはいけません。特尉を失うのは手痛いですから」

 この国の政府は少し前から、少しずつ終わりに向かってきた。それでも、まだ耐えているのはこの部隊の存在があってこそだ。今では、VRMMOをはじめとした技術抜きでは回らないこの世界で大企業の影響力は政府をはるかに上回り、いつ政府が大企業に成り代わっても不思議でないくらいになってしまった。

 しかし、蒼はそれでは困るのだ。お互いやり合うのであれば、自分たちを巻き込まずにしてほしい。蒼は、霞の親の代わり───いや、それ以上の存在として守らなければならないのだ。たとえ、後輩を自ら手にかけたとしても。



◆□◆


 私の友人は、今リアルと言うところに行っています。だから、いつもお世話になっている友人に感謝の気持ちを伝えたくて、市場でそのお礼の髪留めを見繕っています。

「お、お嬢ちゃんじゃないか。どうだい、ここ見ていかないか?」

「はい。見させてもらいますね」

 最近市場でウロウロしているため、すっかり顔を覚えられたようです。


 翡翠のブレスレット、アメシストのイヤリング……少し値段は張りますが、オシャレでいいものが揃っています。それらの小物類の中に、1つだけ指向が違う商品がありました。それは、真っ黒な鏡で店主は、鏡としては何も用をなさないが、綺麗だったため仕入れたそうです。

 私はのぞみこみました。すると、その鏡にはイキシアさん、そっくりの少年が映し出されていました。イキシアさんの後ろ髪を切って、キレイに切りそろえ、全体的にキュッと小さくするとこんな感じになるはずです。

───もしかしたら、リアルという場所でしょうか?


 その少年は男と話しているようです。

 イキシアさんたちは話しているときは私たちとは、口の形が違います。それは、そういうふうにリアルで設定されているからでしょう。

 そのため、私たちはリアルの言葉を知りません。しかし、私は唇や喉の動きから、それと同じように発音をすることはできます。

「大丈夫ですよ。だってもう、俺は……」

 私はその少年の言葉をぶつぶつと呟きました。やはり、意味は分かりませんでしたが、大雑把に少年の雰囲気からは分かることもあります。


 少年はその言葉を言い終えると、少しだけ悲しそうな顔をしていたように見えました。私は彼にまた、声を掛けられませんでした。もどかしくて仕方ありません。

 私は、いつになったら彼に声を掛けられるのでしょうか。


 私はその鏡を買って、珍しく真っすぐに宿に帰りました。

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