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只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第一章:ファンファーレ
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第12話 キャァー、サイコパス出たぁぁぁぁ!

◆ ■ ◆

 少しして光が見えてきた。そこは見覚えのある部屋だった。窓からは月が見え、窓のすぐ傍には机があり、その上には何も置かれていない。ただ、その机の横には質素なスクールバッグとゴミ箱が置かれている。壁際の本棚には数々の本と大量のゲームソフトがずらーっと並んでいて、中でも小説と漫画が多い。その隣にあるのは制服をかけている───。

 制服をかけている? クローゼットの扉は開いていない。

 間違いない。ここは蒼の部屋だ。

 そして突如、アスターが現れた。どういうことだろうか。ここはリアルのはずだ。蒼はゲームと現実は、はっきりと区別している。中毒になることはあっても、リアルに意義を見出せなくなるほど、極度のものではない。

「ごめんなさい。どうしても忘れないの。過去の記憶が、貴方は貴方なのに……。私ってバカよね、本当に。ねぇ、教えてよ。貴方の答えを。私を───」


───夢から覚めなければいけないのは、夢が現実じゃないから、夢が都合いいだけのものでしかないから。じゃあ、もしその理由がなくなったら? 例えば、夢が現実になったら? 夢が都合のいいだけのものじゃなくなったら?


 分からない思考ばかりが自分の頭を搔きまわしていく。その思考が終わるころには視界がぼやけていた。頬を水が濡らす。家はそれほどボロくないはずだが、これは何だろうか。


 そして分かった。なぜか蒼は泣いていた。

◆ ■ ◆



「はっ」

 やはりこの世界に〈幻想〉で生まれる疑似空間での行動は反映されないらしい。精神的には疲労しているが、悪夢から覚めた時の息切れなどはない。

 あれは何だったのだろうか? 無関係というにはあまりにも出来過ぎたものだった。あれは自分が想像することをデータ化し、もとにした予測とかだろうか。

 運営側はこんなところにも妙にこだわっているので、それをゲームとして実用化するコストは大丈夫なのか、などと考えてしまう。


 MPが少し回復したところで引き続き、筋トレを始める。いつも通り、ゲームの考察や予定などを頭の中でする。

 しかし、なぜか集中できない。同じようなところで、思考が途切れてしまう。

 仕方なく、イキシアは思考するのを諦め、音楽を聴くことにした。あらかじめ、自分が購入した音楽データであれば、ゲーム内でも少し設定すれば聞くことができる。いつもは思考するため、音楽を楽しむリソースは割かないのだが、久しぶりに聞くと頭がクリアになっていく。


 一通り、ひとまずは満足が行くところまで鍛えられたようだ。最終チェックとして鏡で成果を確認する。


コンコンコン。

「ただいまー」

「帰ったどー」

「「ただいま戻りました」」

 ちょうど、4人が帰ってきたようだ。また、タイミングの悪いことだ。まさに神がかり的、タイミングと言えるだろう。それに加え、この宿は一室だ。出入り口が2つもある訳がなく、まあ流れ的に男子の部屋が出入り口に直通の部屋となる。

 つまり、イキシアの姿は出入り口から丸見えだということ。


Q.帰ってきて、目の前で半裸で鏡の前に立ち、自分の体を触触サワサワしているいい大人の男がいたらどうするか?

A.悲鳴が上がる。(無論、黄色い声じゃなくて絶叫)


「キャァー、サイコパス出たぁぁぁぁ!」

 リリスの悲鳴が宿中に響いた。まるで、オバケでも出たかのような反応だ。解せない。

 それから当然、宿屋のオーナーからお説教され、その後、罰としてレベル上げに1人で行った。100匹のモンスターを倒すまで帰れまワンハンドレッドという条件付きで。





◆◆◆


 帰ってきたら、アスターが来た。

「ただいま」

「おかえりなさいませ」

「ベリーはもう寝たか?」

「はい。今はもう既に日を跨いでしまっていますから。」

「そうか。夜は危ないから、あまり外に出ないようにな。おやすみなさい」

 それはイキシアがログアウトするということだ。それを彼女も分かっているため、そこで普通なら会話は終わるのだが。

「イキシアさん、強がらなくてもいいんですよ」

 その日は違った。そんなに俺は分かりやすかったのだろうか?

「俺は大丈夫だ。心配してくれてありがと。おやすみなさい」

 イキシアは半ば強引にアスターに挨拶をするとログアウトした。



❏❏❏


「おやすみなさい」

 ベリーは消え入りそうな声でそこにはもういない彼に挨拶をした。

───悔しい

 なぜかは分からないが、悔しいと感じた。

───彼が私を頼ってくれないから?

 ベリーは人間の生体的なデータから、その対象の情報は全てわかる。そう作られた。そうあるべき、そうあらなければいけないのだと体の奥底から訴えかけてくる。

 ただ、彼からはそれがほんの少ししか感じられなかった。それは気のせいだと言われれば、その通りなのかもしれないと思ってしまうほどだ。


 この際、彼が落ち込んでいたのかどうかは、もう1人で考えても分からない。仕方のないことだと割り切れる。

 ただそれでも、彼に何も言えなかった後悔は残り続けた。

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