表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
只今混沌の淵にて  作者: サイカ
第一章:ファンファーレ
11/34

第11話 ……なら燃やせばいいだったか?

◆◆◆


 男の手がベリーの体に伸びる。

 そこには、やはり先ほどと同じく、下卑た感情は見えない。おそらく、こちらの実力を測るために喧嘩を売るネタにしているのだろう。血の気が多いことだ。

 だが、それでもそれは気に障る。イキシア自身も手段を選ばないところがあるため、感心しないとは言い切らないが。


パシッ!

 しかし、その手はベリーに触れることなく、叩き落とされた。

「すまないが、急いでいるんだ。あなた方に付き合う時間などない。」

 その声は穏やかだが、そこには明確な拒絶があった。


 イキシアは踵を返すが、わざわざイキシアの前まで走ったらしい。イキシアの行く手を遮るように仁王立ちする。ご苦労様なことだ。

「あ゛ァ? お前、自分が何を言っているのか分かってんのか?」

「ゴミムシが囀らないでくんなまし。」

「随分と生きのいい後輩ですねぇ」


 イキシアは剣を突き付けられた。ギルドが再び、期待の新人VS最近話題の実力派冒険者との決闘だの、なんだので沸く。

「しつこいな。こういう時は燃やせばいいんだったな」

 アスターの一連の行動を見ていた一部から悲鳴が上がる。

「はっ。威勢だけは一丁前ってヤツか」

「来なさいな」

「その威勢がいつまで続くか見物ですねぇ」

 しかし、男たちは鼻で笑い、イキシア目掛けてとびかかった。


 イキシアはすぐさま、男たちの攻撃を搔い潜り、立ち位置を変えた。さすが、最近話題の実力派冒険者と言われるだけのことはある。いつも最低限の動きでいなすが、今回は余裕を持って回避せざるを得なかった。

「〈幻想〉」

 そして、イキシアは男たちに触れると詠唱する。これは対象に触れ、詠唱する必要があり、幻想という名前にも関わらず、他の人にも異変は伝わってしまう。使えるところが現時点では限られてしまうが、今回はそれがプラスに働いたようだ。

 急に男たちが動きを止め、赤黒い炎に包まれた。男たちは失神した姿を見て、観客たちは呆然としていた。



バタン!

 そこに勢いよく飛び込んできた女がいた。誰しもが最悪なタイミングだと思ったが、救いだとも思った。

 その女は男たちを見て驚きのあまり目を丸くするが、次の瞬間土下座した。

「つ、連れが申し訳ございません! 普段は私が責任を持って3人を制御しているのですが、私がいなかったばかりに。本当にご迷惑をおかけし、すみませんでした。」

 綺麗な土下座だ。

 おそらく、普段からこの3人のストッパー役で右往左往しているのだろう。今の状況を頭で理解してからの行動が速すぎる。

「こちらこそ、すまない。魔法は解こう」

 イキシアは〈幻想〉を解く、これは持続型の魔法なので、続ければ続けるほどMPが減ってしまう。最近はアスターに適度にMPを譲渡してもらっているため、それほど切羽詰まってはいないが、無駄遣いをする余裕はない。だから、こちらとしても厄介事の事前防止が済んだため、もう用はない。

「これからは気をつけるんだな」


「お、お待ちください!」

 イキシアが身を翻そうとすると、止められた。いい加減、帰りたいものだ。

「何か用か?」

「こ、今度、お詫びに武具を買いに行きましょう。いつがよろしいですか?」

 武器はまだ持っていない。お金に余裕がある訳でもないため、ここは素直に乗っておこう。

「明日の夕方でどうだろうか?」

 今は昼夜逆転で昼に設定している。今は日をまたいでいる。そのため、イキシアがログアウトすれば時間の進みが速まり、次のログインまでにはリアルと同じになるだろう。これは端的に言うとズルを防ぐためで、昼夜逆転ができるのは1週間に1回だ。それは、昼夜というのもゲームのいろいろなことに関わる大切な条件だからだ。それを気軽に変えられるとなれば、面白みがなくなってしまう。

「分かりました。ここでお待ちしております。」





◆◆◆


 イキシア以外は全員、新しい獲物を持ってレベル上げに行っているため、部屋にはイキシア1人だ。武具を気に入ったようで何よりだ。その分値段はしたが、払えないほどではない。お金を貸してくれたベリーには感謝だ。勿論、イキシアはもうすでに最初に借りたっきり、借りていないし、それも、もう多少色をつけて返した。

「よし、まずは筋トレからか」

 イキシアは上の服を脱ぐ。いや、断じて変態ではない。これは効率よく鍛えるためだ。成果を確認するには観察するのが一番手っ取り早いのだ。

 それにしても服もボロボロだが、ローブもあるため、見えないし最近ベリーにお金を返したばかりということもあり、中途半端な物しか買えないだろう。今は少し我慢すべき時だ。


 何はともあれ、まずは腕立てからだ。

「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……」

 すると、ここで鈍い痛みが走った。今のこの脆弱な体ではここまでしか耐えられないらしい。

 だが、イキシアにはサイコパスと呼ばれるアレがある。

 イキシアは〈回復〉がカンストし、獲得した〈大回復〉を使う。すると、筋トレで破壊された筋細胞が修復されるとともに、今度は増強される。そして、イキシアはまた筋トレをする。筋細胞が壊れる。修復&増強する。

 その繰り返しこそが、効率よく強くなる方法であり、近道だ。

 なぜか、霞に別のゲームでも同じようなことを薦めたのだが、引かれたうえにそれを3回しただけでギブアップしてしまった。その後はもう一生しないと頑なに拒み続けている。案外、霞は打たれ強くないらしい。意外だ。ちなみに、ローは痛いのが嫌いなので、そちらは想定通りだった。


 ある程度筋トレの成果が見えてくると、気になっていた〈幻想〉の実験に取り掛かる。MPが〈大回復〉を使うことで減ってきたためだ。まだあるにはあるが、維持費と急に戦闘になることも考えるとここらへんで休憩すべきだと考えた。

 イキシアは固い、お世辞にも良いベッドとは言えないベッドに座る。ちなみに、このベッドがいまいちなのはプレイヤーはログアウトするときにベッドに横たわるが、別に寝る必要はないため、固くても何も問題がないからだ。その代わり、睡眠が必要なベリーと必要ではないが、睡眠はしないが椅子代わりに使うアスターのベッドはかなりいいものにしてもらっている。

「〈幻想〉」


 その瞬間、目の前が真っ暗になった。

 リアルの事情で時間ができたので、またストックが溜まってきました。明日から1週間ほどは隔日更新にします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ