9.愛しき御子の
それから、チーは食べては服薬、食べては服薬を繰り返した。必要なのは根気と時間らしく、チーはそれから10日あまりのほとんどを寝て過ごした。
10日が経てば、チーは必要最小限の行動を許された。咳は出ていたが、血は吐かなかった。20日が経つ頃、布で口を覆った状態なら、買い物に行ってもいいと遣いに出された。自分で地面を踏みしめるのが、とても懐かしく感じた。
そして、30日が経つと、ユーヤンが心底安堵した顔をして、「完治だ」と言った。
治った。治ったのだ、本当に。
「もともと、感染力が強いだけの病なんだ。毎日ちゃんとメシ食って、薬のんで、しっかり寝て、清潔にしてれば自然と治る。お前のとこは、たぶん、人手不足もあって、安静にしてるだけの余裕がなかったんだな」
「………私、は……生きていていいのだろうか」
「………は? 生きろよ。俺が生かした意味が無くなるじゃん」
そうは、言っても。チーには、これといった生きる意味がない。親に売られ、奴隷として働いても拳大ほどの飯しかもらえない生活の、どこにそれを見出せば良かったのだろうか。
「………なら、私を弟子にしてくれ」
「…………は?」
「お前の、その医者としての知識、経験を教えてくれ。私も、命を救う側の人間になりたい……!!!」
ユーヤンが、こくんと唾を飲み込んだ。
「………やだよ、面倒くさい。俺は、のんびり旅してる時間が好きなの。誰も弟子にとるつもりは無い」
「……っ、」
その顔が、まるで世界の終わりのように青ざめたから。空がやけに晴れていて、気分が少し高揚していたから。………彼が、まるで過去の自分のようだったから。
面倒くさがりのユーヤンは、口を滑らせたのである。
「だからまぁ、話し相手くらいなら雇ってもいいかな」