8.かつての彼の
いままでの息苦しさが不意に軽くなって、チーは目をあけた。体がまだじゅうぶんに動かない。仕方なく、視線だけを彷徨わせて現状の把握に努める。
だって、この状態では、ろくに仕事もできない。
『なんだお前、熱でもあるのかい。他の奴に感染したら承知しないからね』
前のところだと、狭くて暗いところに閉じ込められていた。今度は、もう少しマシなところになってはいないだろうか。
「起きたか」
「……………」
「まだ熱があるな。食欲はあるか、なくても薬は飲んでもらうけど」
「……あんた、なんで、」
チーがそこまで言うと、ユーヤンは水で濡らした布切れを彼の顔に投げつけた。
「お前それ以上言いやがったらマジで飯抜きだからな」
「…………べつに、アンタが勝手に引き取ったんじゃん……」
自然と、不貞腐れたような顔になる。チーは、ユーヤンが何に怒っているのか見当がつかない。
「そうだよ、俺が勝手に引き取った! だから、お前が俺に病を感染すだとか迷惑をかけるだとか考える必要はないわけ! それに俺が文句を言う筋合いもないわけ! わかる!?」
チーは、ただでさえ働かない頭に縁遠すぎることを詰め込まれ、とうとう思考を停止した。
「…………??? ご、ごめんなさい……?」
「………治るよ。それは、ちゃんと治るから。俺が治すから、安心して寝な」
(………治る?)
嘘だ、と叫びそうになるのをこらえた。だって、みんな、みんな、同じ病で死んだじゃないか。うちの村は、それで自分以外が全滅したんじゃないか。
「言っただろ、助けられる命だったって」
(もっと早く、あんたに出会えてたら良かった)