7.たったひとりの
ぞっとした。今まで何度も遺体を見てきたし、人の死に立ち会うことだってあった。それでも、それでも。
血まみれの口をわずかに開閉しながら酸素を取り込み、光のかけらも映さない虚ろな目でこちらを見るまだ小さな子供。救ってやらなければならない、守ってやらなければならない、育ててやらなければならない。
これは使命感や正義感ではない。ユーヤンがユーヤンとして生きるための決意で、彼を引き取ると決めたゆえの義務である。
(なんで、言ってくれなかった…! なんで隠そうとした、なんで……!!!)
「もう全部吐いたか!? 喉、つまったりしてないな!?」
「………っ」
感情的なものか、痛みからくる生理的なものか。チーの目からころころと涙が溢れた。
何かを伝えようと、口が動く。聞き漏らさぬよう耳を近づけると、彼はユーヤンに体を預けたまま意識を手放してしまった。
彼がユーヤンに伝えたのは、謝罪だけだった。黙っていたことや、隠そうとしたことではない。ユーヤンに感染してしまったかもしれないことだ。ユーヤンは、浅いながらも息をするチーを見て、安堵の笑みを浮かべた。
「お前が謝ることなんて、ひとつも無い。大丈夫だ。言っただろ、助けられる命だったって」