4.気休め程度の
村ごと家族を亡くしたチーを、一体誰が面倒をみるのか。答えは始めから決まっていた。
「………マジ?」
「逆に、アンタ以外に誰がいんだい」
村の代表と言っても過言ではない婆さんに指を指され、ユーヤンは「参ったなぁ」と頭を掻いた。いうほど子供は好きではないのだ。ただ、やけに好かれるだけで。
「頼むよユーヤン。村で窃盗騒ぎを起こした子供なんて、誰も喜んで引き取らないよ」
「………ああ、そういう」
やや遠巻きにされているチーは、自分の周りを飛び回るハエを目で追っては手で払っていた。
「それにあの子、見たところ少年奴隷だろう? どこの生まれかもわからない、どんな病気に罹ってるかも知れないんだ。アンタのとこが、私たちにとっちゃ1番安全なんだよ」
「………わかったよ、俺はこの村の医者だからね」
面倒だなぁと小言をこぼすユーヤンは、チーに「帰るよ」と声をかけて、防水布のテントに戻った。
その日から、奇妙な共同生活が始まった。
「チー! そんなに食うな、ただでさえ消費2倍で参ってんだ」
「なんだよ、メシの一つや二つくれてやるんだろ?」
「お前の“一つ”は3食分かよ!!!」
ふざけんな!と嘆きながらも、ユーヤンはチーのその手を止めようとしない。
「食ったら、お前の診察な」
「えぇ………」
「お前が悪い病気とか怪我とかしてないか診るだけだ。痛いことも苦しいこともしない」
「ほれおいで」と両手を広げるユーヤンに、チーは半ば呆れながら、食事の口を固く結んだ。