3.流行病の
一言で言えば、酷い有様だった。
血と、肉が腐った臭いがした。ハエか蚊か、ウジかゴキブリかが好き放題に領地を広げていた。
「………咳をすると、みんな血を吐いたんだ」
子供が言った。自分だけが、倉庫に隔離されていたこと。外に出たら、両親が死んでいたこと。畑のものを交換していた家も、手作りの甘味をくれた家も、みんな中で死んでいたこと。
「私だけが、生き残ったんだ」
「………俺、ユーヤンって言うんだけどさ。お前、名前は?」
「………ない」
「じゃあチーって呼ぶわ。俺の昔の呼び名」
結果から言って、生き残っていた者はいなかった。村の子供が、自分と同じくらいの大きさの薬箱を抱えてきたとき、2人はそこに住んでいた村人を、ひとりひとり埋葬しているところだった。
「………悪いな」
口を開いたのはユーヤンの方だった。チーが顔を上げたのに見向きもせずに、彼はただ、「助けられる命だった」と唇を噛んだ。
何を、とチーは思う。助けられたものか、例え自分が一日はやく彼を連れてきたとて、両親も村のひとたちも助からないのに。
「……?」
「チー? どうした?」
「………い、いや、なんでもない」
「? そうか。お前にも感染ってるかもしれないから、体調が悪くなったらすぐに言えよ」
「…………」
チーは答えなかった。