2.隣の村の
「ユーヤン! そのガキ掴まえろ!!!」
「お」
声に反射して、横を駆けていく小さな影の首根っこをつかむ。
その子供は、長い髪をしていて、珍しく整った綺麗な顔をしていて、その顔でユーヤンを睨むと、
「! 離せジジイ!!!」
暴言を口から吐き出した。
「ジっ、!? 俺はまだ28だ! ほら薬離せ! それ無いとあっこの婆さんは呼吸困難を起こすんだよ!」
薬の紙袋から手を剥がそうとした手を止めた。
(………細すぎやしねえか?)
その服を着ている子供の腕は細く骨が浮いていて、泥で汚れ、いつ負ったか分からない擦り傷には少しウジがわいている。
(隣村って、そこまで遠くねぇから水不足も食糧不足もねぇはずなのに……)
「………お前、」
「はやく、はやく行かなきゃ……!」
薬が入った袋を抱えて、ただ自分の村の方向を見据えているであろうその子供は、わずかに目に涙を溜めていた。
「………おい! 俺の家から薬箱持って来い! デカい方だぞ!」
「んぁ!? お、おぅ!」
村の子供にそう叫ぶと、彼は訳も分からないであろう指示にも従いに走り出した。
「おい落ち着け、何があったか話せるか」
「あ、」
はく、と口から空気が漏れ出た。
「俺は医者だ。お前の村に案内しろ、今すぐ。………助けられる命なら助けてやる」
子供はそれだけ聞くと、意を決した顔をして、ユーヤンの手を取り走り出した。