11.ここから西へ
テントは、本当に小さく畳まれ、ユーヤンの荷物におさまった。
「んじゃ、また用があったら手紙でも書いてくれ。場所によってはすぐに向かうから」
「…………」
手をふる婆さんにチーが頭を下げる。
「さて、チー。どこに行こうか」
「………美味い飯が食いたい」
「くくく、いいねぇ。んじゃ、とりあえず西に向かいますか!」
西に行けば、香辛料がある。西、ここから見える太陽が沈んでいく方角だ。
いずれ太陽を追い越すと、太陽が出てくる方角へ進むのかと問うチーに、ユーヤンは道すがらに一般教養を与えると決めた。
チーは、体から言うと9つか10かの年だと思われるが、世界への好奇心や知識欲はまるで5歳児のようだった。
「なぁ、あれは何?」
「この草、食べられるか?」
「なんで太陽が沈んだのに空に灯があるんだ?」
医者からすると専門外も甚だしいのだが、自分も幼い頃は師に疑問をぶつけまくっていたなぁと、出来る限りその疑問に答えた。悪いものに騙されぬようにと、文字と計算も教えた。
やがて街が見える頃になると、チーは一通りの読み書きと計算はできるようになっていた。
「チー、もう一度言っておくが、俺は《遍歴医》だ。前のお前の村がそうだったように、病が流行った街にも行く。そして、感染したまま別の街に行くと新たな悲劇を生む。もう一度きくぞ、体調はどうだ」
「大丈夫だ。なんともない」
チーがはっきりそう言うと、ユーヤンは少し笑みを浮かべてチーの髪をかきまぜた。




