第6話 **新たな時代への挑戦**
今日、メガネの奴が興奮した様子で帰ってきた。その目はいつもより輝いていて、何か大きなことが起きたに違いない。彼が扉を開けた瞬間、その興奮が空気中に溢れ出すのを我輩「カテイ」は感じ取った。
「タイの新未来党が設立されたんだ!」メガネの奴は声を弾ませながら言った。彼はその党の設立に興奮していた。党の創設者であるタナトン氏が、プラユット軍政権に対して大胆な挑戦を投げかけたのだ。彼らの目標はただ一つ、クーデターの悪循環を撲滅し、タイの国の運命を変えることだ。
メガネの奴は、その新しい希望に胸を膨らませていた。総選挙の活動が活発に行われ、彼はその動きに一瞬たりとも目を離せなかった。彼にとって、タナトン氏と新未来党は、長年続いた軍政権に終止符を打つための最後の希望だった。彼は、その党がタイに民主主義を取り戻し、未来を明るく照らすことを願ってやまなかった。
しかし、我輩「カテイ」は、その様子を見ても特に感情を動かされることはなかった。人間たちがどれだけ興奮していようと、それが我輩の関心事になることは滅多にない。我輩にとって、世界はもっと単純なものであり、政治や権力争いなどは、深い海の底の静寂と比べれば、取るに足らないものだ。
メガネの奴は、選挙の結果に一喜一憂していた。タナトン氏がプラユット軍政権に挑む様子を見て、彼は希望と不安を胸に抱えていた。しかし、選挙が進むにつれ、彼の興奮は徐々に落ち着いていった。新未来党は多くの支持を集めたものの、最終的には軍政権に対抗するには十分ではなかった。
「変えられるはずだったのに…」メガネの奴は、ため息をつきながらつぶやいた。我輩「カテイ」は、そんな彼の横で静かに尻尾を動かしながら、ただ日常の平穏を楽しんでいた。メガネの奴がどれだけこの出来事に心を乱しても、我輩の心は深海のように静かで落ち着いていた。
「変革には時間がかかるものだよ、ニャー」と言いたかったが、彼には我輩の声が「ミャー」としか聞こえなかっただろう。どんなに人間が努力しようと、彼らがコントロールできるものは限られている。我輩は、その事実をただ受け入れるだけだ。
それでも、メガネの奴は諦めなかった。新たな時代が訪れるその日まで、彼はこの国の未来に希望を託し続けた。我輩は、そんな彼を静かに見守りつつ、今日もまた壁を見つめるのだった。
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(第7話に続く)