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プロローグ



 トットットット、と。


 ちょっと急いだ足が、床の木板を鳴らす。



「……っと」


「ライズくん、僕がそっちを持とうか?」


「いや、大丈夫だ」



 歩いているのは、ふたりの青年だった。

 腕には山のような荷物。

 どちらも白衣を羽織(はお)っていて、長い裾が跳ねるように何度も足に当たって揺れる。


 こうして急ぐのも無理はない。

 今、彼らの目の前に伸びる長い廊下。その左には教室が並んでいる。


 予鈴が鳴るまであと少し。


 生徒がどっと廊下に溢れてくる前にここを抜けてしまおうというのが、彼らの思惑(おもわく)だった。



「魔法学校の先生も楽じゃないね」



 そういったのは、ふたりのうち背の高いほう。夕闇の高いところにある、暗い、紫色の空のような髪の青年だった。

 速い歩調に合わせ、肩まで伸びた後ろ髪が白衣を掃くように滑る。



「ところで、この量本当に要る? 午後の授業は基礎試薬作りだけだっだよね?」


「あー……それは、そうなんだが……」


「?」



 返ってきたのは、妙に歯切れの悪い言葉だった。


 それで、助手のリィエンは肩まで積みあげた薬草入りの麻袋を落とさないよう自分に寄りかからせると、隣を歩くライズをじっと見る。


 ライズは小瓶の詰まった重い木箱を抱えながら、夕焼け色の瞳をまっすぐ廊下の奥に向けていた。


 べつに何かを見ているわけじゃない。

 ただ、こっちと目が合わないようあえて別の場所を見ているだけだということを、リィエンはこれまでの付き合いでわかっていた。



「なにか言えないようなこと?」


「え? ああ、いや! そういうわけじゃなくて」


「……」


「いや、その……」



 結局、リィエンの視線に耐えきれなくなったのだろう。ライズは、はあ、とため息を零すと、人の良さそうな顔になんとも言えない表情を浮かべて話し始めた。



「……2年生は、魔法薬学の授業初めてだろ? ただでさえ慣れない調合で緊張するのに、材料に余裕がなかったら余計にプレッシャーになるかと思って……」


「ああ。それで用意しすぎちゃったんだ」



 ぱっと。瞳と同じ夕焼けの髪に負けないくらい、ライズの顔が赤く染まる。



「まあ、そういうこと……だな」


「君らしいね」



 ようやく疑念が晴れ、くすくすと音を立てリィエンが笑う。


 その声は彼らが通り過ぎたあと。

 柔らかな陽射しが降り注ぐ廊下に、余韻(よいん)を残して消えていった。





 季節は春。


 9月始まりのプリエール魔法学校は、つつがなく半年を終え、2学期に入っていた。


 これまで大きな事件もなく、学校は変わらぬ日常を送っているように見えた。だからライズとリィエンも、いつもどおり授業の準備のため魔法薬学保管庫に向かう。



 そう、平和だった。

 平和で、何事もなくて。


 だから。




 扉を開くまで、異常に気づかなかった。






「待って!」



 リィエンの声が飛ぶ。


 けどもう遅い。

 ノブを引いたライズの目が、吸い寄せられるように開いた扉の隙間に向けられる。


 そして。

 



「これは——!」




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