第一章8 『いざ、魔族の住処へ』
「「……」」
漂う殺伐とした雰囲気。『なぜか』と聞かれたらこう答える。『笑ってしまうから』王のいる城から十分離れたところで先に勇者が吹き出した。
「ははは。はは」
つられて自分も笑う。
「賢者。まじで国家予算3年分って言うとは思わなかった。それに、代わりにお命でお支払いしてもはやばいでしょ」
「いや、ユウだって殺すとか言ってたんじゃん。それに報酬の時、僕が言った国家予算って時、完全に下向いて笑ってたでしょ?」
「うん、笑った。まあ、あのロリコンの機嫌を取るためにも、家宝を取り返してこよう」
調子に乗りすぎていたところはあるので、それくらいはしてやらないとあちらも気が済まないだろう。
「そういえば、賢者。魔道具が欲しいなら言ってくれれば買ったのに」
確かに勇者に言えば買ってくれただろう。しかし、
「あれ、ものすごい値段するんだよね」
「そのブレスレットとかは、私が持ってる剣と同じくらいの値段じゃん」
ただのブレスレットで剣と同じ値段は高すぎる言う人も多いが、その中でもユウは数少ない理解者だろう。
「今回欲しいのはよく魔法職の人が持ってるあの杖みたいなやつ」
「ああ、あの先が魔法陣みたいになってたり、星とか月とかのオブジェが付いてるやつね。そんな高いの?みんな持ってるじゃん」
「確かにみんな持ってるけど、魔法職の人ってみんな高貴な方が多いんだよ。だからあんな高い物も買えるってわけ」
「へー。あるのとないのだと違うの?」
「全然違うよ。なんてったって魔力消費が抑えられる。ちなみに、大魔術師の試験をその杖なしでクリアしたのは僕が初めてらしい」
「規格外だね」
試験監督や、一緒に試験を受けた人にもそう言われた。
「ちょっとさっき寄った店寄って行くか」
「なんで」
「なんとなく」
「なるほど」
城に来た道と同じ道を戻る。
「こんにちは。さっき錬成お願いした者なのですが、」
店長さんはすぐに『ああ』と言った。
「ちょうどよかったな。今日は調子が良くてもう終わってるんだ」
「なんとなく来たけど、運がよかったね」
「私もここまで計算してたわけじゃないよ」
店長さんの前の机にはすでに錬成が終わっている装備が並んでいた。
「了じゃあ持って行っちゃっていいよ。旅路で死なねえようにな」
「はーい。ありがとうございます」
店を出て、宿に戻ってきた。昼飯まで3時間ほど時間がある。
「どうせそんな難しそうじゃないし、家宝の奪還やっちゃおうか」
今日は一日中グダグダしたり、街を回ったりする予定だったが、ユウの装備が戻ってきた今別に何もしないでいる理由はない。
「勇者がそう決めたのなら、僕はそれに着いて行くよ」
「じゃあ、サラシ外して鎧着るから待ってて」
別にサラシ外さないで鎧を着てもいいのではないかと思ったが、口には出さない。
また右手のブレスレットを一つ取って、手の上で転がして遊ぶ。
「布引っ張って」
「あのさ、自分1人でできないの?」
「服脱がないといけないからさ」
街から出る時、そこから僕らのいた王都まで行く運搬業の方がいたので、その馬車の荷台に乗せてもらった。
盗んだやつが逃げて行った方向はそっちで、明らかに何かがいるから、多分そこだろうと王は言っていた。
実際、ユウはここで魔物に襲われる人が多発していることを、小耳に挟んでいたらしい。
「ここで降りさせてもらってもいいですか」
馬車を走らせていたおじさんは『はいよー』と言って、馬車を止めた。
「気をつけるんだよ。最近はここで魔物に襲われている人が多いから」
「ありがとうございました。そちらも気をつけてください」
おじさんはまた馬車を走らせる。馬車はすぐに見えなくなってしまった。
「どう思う?」
ユウが聞いた。
周辺に怪しい気配はない。探知魔法も使ったが、全く反応なし。
「探知魔法にも全く引っかからない上に、ここ周辺に全く魔物がいない」
周りに何も魔力探知に引っかかるものがいないとなると、そいつらは何かに怯えてそこから逃げたと言うことなのだろう。
「魔物がいない?それはかなり……」
「うん。多分相手は、魔力探知から逃れることができる魔族だろうね」
魔族は魔物とは違い知性がある。そして、魔物より確実に強い。まさか最初に相手するような相手がそんな奴になると思わなかった。
「なら、さっきのおじさんが言っていたように、そいつがここで旅人とかを襲っているのかもしれないな」
十中八九そうだろう。ユウは道から外れて森の中に入った。
「手がかりはあまりなさそうだね。特定は無理か」
「僕が無理だと思う?」
僕は大魔術師だ。魔力探知に引っ掛からなくても、探す方法などいくらでもある。
「思わない。どうせもう場所くらいわかってるんでしょ?」
「勿論」
魔族の場所は特定できている。馬車で移動している途中に木片があった。
ただ木が折れたのだろうと思い、あまり期待はしていなかったが、その周辺を詳しく探知魔法で探知した結果、周辺に草などが折れた引き摺った痕跡のある場所を見つけた。その上、血痕も微かに残っており、それを辿ってみたら怪しい場所まで行き着いた。
それをユウに説明する。
「探知魔法ってどこまで分かるもんなのよ」
「風で吹き上がる花粉の一つ一つくらいまでなら分かる」
「うわ」
「それだけわかる分、その分魔力探知は激しいけね。馬車の上で全ての意識をそっちに向けることができたから、今回は探知できたよ。多分歩きだったら探知できてなかった」
魔力探知を全力で行うために、馬車の上ではずっと寝ていた。
「そして、場所はここってわけだね」
「そう。本当はもっと森の中に根城があるだろうけど、わざわざあっちから出てきてくれたみたいだ。でも、状況は最悪だね。囲まれてるみたい」
全ての魔力探知をすり抜けてやってきたのだろう。囲まれているとはいえ、ユウなら余裕で殲滅できるだろう。
「俺は前の3人をやる」
「分かった。後ろの2人は僕がやるから、気にせずやって」
ユウが土を蹴った後だけ残り、ユウの姿は消えた。
こんな奴ら相手に、そこまで力を出さなくていいだろうに。僕も規格外と言われるが、十分ユウも規格外だろう。この一瞬で近づいてきたユウに対抗しようとして解放したのだろう魔力が2つ探知できなくなっている。
もう切り刻まれたのだろう。
僕は一歩も動かず通常攻撃の魔法を繰り出す。後ろにいようと関係がない。その通常攻撃魔法は木々の間をうねり、1体の魔族の頭を吹き飛ばす。その通常攻撃魔法の方向を変え、もう一体も貫く。一石二鳥だ。
返り血すら浴びていないユウが戻ってきた。
「抵抗すらさせなかったみたいだね」
「一歩も動かずに一瞬で二体殺すそっちも全く抵抗させていない気がするけど」
森の中を歩き、さっきの奴らを束ねている奴がいるだろうと思われる洞窟の入り口にやってきた。分かっていたことだが、魔物と接触していない。
「嫌な雰囲気だなー」
ユウが言った。洞窟の中は真っ暗だ。
「とてもお宝があるようには見えないね」
「洞窟なんてほとんどそんなもんでしょ。さて、制圧しようか」
ユウが先頭になってどんどん先を進んでいく。
「分かれ道だ。賢者、どっちがいい?」
「多分右が正規ルート」
「じゃあ左行こうか」
「何でそうなった?」
「直感」
「じゃあユウの直感は腐っていると覚えておくよ」
別にどちらに進んでも行き着くところは多分同じなので、それ以上は何も言わない。
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