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第一章3 『狩人さんと相席』

それからすぐに料理は来た。


「お待たせしました。きのことベーコンのパスタと、マルゲリータです」

「ありがとうございます」


ベーコンとキノコが乗ったパスタが2皿と、半分ずつ食べるために頼んだトマトソースのかかったピザが乗った皿が机に置かれる。


「ビール追加でお願いします」

料理を運んできたウェイターさんにユウが追加で注文をする。

分かりました。と言ってすぐに戻って行った。


「早くない?」

「少し羽目を外していいからね。親もいないし」


「私はともかく、ほんとマイは小欲だよね」

ユウも食べる量が少ないから、そんなに細いんだと言ってやりたい。


「食費がかさばらなくていいよね」

「だからそんなに小さいんだよ」

「今は食費を抑えられることを素直によろこびたかったんだけど」


素直に喜べなくなってしまった。


左手のスプーンに右手のフォークでクルクルと巻いて食べやすくする。それを口に運ぶ。


「あの、席が空いてなくて。相席させてもらってもいいですか?」

聞き覚えのある声が聞こえた。


「いいよ」

ユウが言った。絶対適当に言った。この人。変な人だったらどうするつもりなんだ?


口の中のパスタを飲み込んで、その声の持ち主の顔を見る。

その人はさっき風呂であった人。


「狩人さんですか」

「知り合い?」


僕が答えようとしたが、席に座った狩人さんが先にユウの疑問に答えた。


「さっき風呂場で少しお話をしまして」


丸テーブルに僕らは向かい合って座っているので、狩人さんはその間に座った。


「あはは。どうせマイのことを女の子だと思って、女湯はあっちですとか言ったんでしょ?」

「図星です。失礼なこと言ってしまいました」


大丈夫。失礼なのはユウの方だ。

口を挟む気力も出てこない。パスタをもう一口食べる。


「旅をしていると聞いていましたが、まさか姉妹で2人旅をしているとは」


ユウが吹き出す。

「姉妹。姉妹ねぇ〜。マイ。お姉ちゃんには優しくしないとダメだよ?」

「ユウ。一回静かに」

「はい。すみません」


一連の誤解を解くために狩人に説明をする。


「僕とユウは姉妹じゃありません。強いていうなら姉弟です。というか、そもそも僕とユウは同い年です」


狩人さんは少しの間考えていたが、すぐに理解したように頷く。


「ははは。そんな」

あ、この人、何一つ理解してない。



ちなみにユウはずっと笑っている。そろそろ酔いが回っているのかもしれない。


「同い年です」


「なるほど。……え?同い年」

「いや。私の方が年上です」

「ユウ一回黙ろうねぇ」


流石にここは黙らせる。結果的に、幼馴染で冒険者を目指していたということを説明すると納得してくれた。

もそもそ食べていたので、僕たちの前の料理は三分の一ほどしか減っていない。狩人さんが頼んでいた料理も来た。


「狩人さん。マイが怒っちゃったからどうにかしてくれません?マイって怒るとすっごく怖いんですよ」

「そんなふうには見えませんけどね」


余計なことしないでほしい。それに、ユウに怒ったことは一度もない。


「マイさん?お姉さんとは仲良くした方がいいと思いますよ?」

「だから同い年だって!」


僕らの笑い声が響いた。

それからご飯を食べながらどうでもいい話をたくさんした。


僕の皿の上のパスタは無くなっている。


「やばい。お腹いっぱい」

「私も」


ユウの皿の上のパスタも無くなっていた。

しかし、2人の間にあるピザは無くなっていない。


「ユウ。ピザ食べれる?」


僕は八等分したうちの一切れは食べた。皿の上は三切れ無くなっているので、ユウは二切れ食べたのだろう。


「無理」


残った五切れは食べれそうにない。残してしまうのも勿体無いので、狩人さんを見る。ユウも同じように狩人さんを見ていた。

それに気づいた狩人さんが口を開いた。


「な、なんですか?」

「これ、食べれません?」


2人でこの量のピザは食べきれないと判断し、狩人さんに譲ることにする。


「これ、食べてくれません?」

「私のもお願いします」


僕に続けてユウが言った。


「食べないんですか?」

「はい。もうお腹いっぱいだし余ってしまったらもったいないので」


それを聞いて少し迷ったようだが、すぐにピザに手を伸ばした。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

一切れのピザをペロリと食べてしまった。どんな胃袋をしていれば、そんなに食べれるのか謎だ。


「そんなんだから、背が低いんじゃないんですか?」

「やっぱりそう思いますよね。もっと食べた方がいいよ」

「余計なお世話です。ユウだって、全然食べないからそんな細いんだよ」


僕がそういうと、ユウは自分の胸を少し持ち上げた。

目でやめろと指示する。細いのはそこではない。

誰も見ていなかったので、周りの変態どもに目をつけられることはなかった。


「私は、大剣を使えるくらいには筋力あるから大丈夫でーす」

「ユウさんも、十分細いと思いますけどね。もっと食べた方がいいですよ。2人とも」


「そういえば、魔法使いと言っていましたよね?最近、最年少にして大僧侶と大魔術師の称号を得た賢者が、勇者と共に旅に出たと言う噂を聞きました。何か知りません?」


その魔法使いを知ってはいるが、答えたくはない。自分だからだ。そもそも、勇者のことをユウと呼んでいるのだって勇者とバレないようにするためでもある。このような場所で、勇者とバレてゆっくり食事ができなくなってしまうのが嫌だからだ。


「し、知らないかな」


ユウは自分のショートカットの髪をくるくるしながら言った。ユウは嘘をつくのが絶望的に下手だ。特に、嘘をつく時、ユウは自分の髪を触る。


「マイさんは?」


ばれてなさそう。よかった。


「知らないですね」

「そうですか。冒険者の中では有名なんですけどね。女の人と女の子が2人旅しているらしいですよ」


これが本当だとすると、多分女の子というのは僕のことだ。許すまじ。

ユウは笑いを堪えている。


「ふ、ふふ。女の子が。勇者と」

「はい。そうなんですよ。女の子って言っても、年齢とかまではわからないんですけどね。そういえば、お二人もそんな感じですけど」

「失礼ですね」

「すみません」


これでも気づかれていないみたいだ。狩人さんが鈍感で良かった。ただ馬鹿なだけの可能性も否定できない。

ただし、これ以上は気づかれる可能性がある。早急に話題を変えなければ。


「狩人さんはここにどれくらい滞在する予定なんですか?」

「俺は明日の朝にはこの宿を出る。そして、点検に出してた武器を受け取ってこの街を出る」

「そっかー。お互い冒険者なんだし、どこかでまた会うかもだね」


「そろそろ、おいとまします。ユウはどうする?」

「私も部屋帰る」


ユウのコップの中身はいつのまにかグレープフルーツジュースに変わっている。ジュースは頼んでいなかったはずだ。


「それじゃあまたいつか」

「そうですね。また」

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