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ポケットティッシュ

作者: ヨネカワタクミ

「よろしくお願いしまーす!」


 新装開店のパチンコ屋のポケットティッシュを渡された。

 パチンコに興味はない。別にポケットティッシュが欲しい訳でもない。ティッシュを配ってる娘が可愛い!という訳でもない。断る理由が無いだけである。


 出社して、ケータイとポケットティッシュを上着から取り出しデスクの上に置くと

「お!あそこのパチンコ屋いったんか?今日オープンやもんな!」隣のデスクの先輩から声を掛けられた。

「いやいや、出勤前にパチンコなんてしませんて。そもそもパチンコ行きませんし。」そう答えると

「真面目な奴やな」と面白くなさそうにパソコンの画面に目を落とした。


 デスクの引き出しから書類を出し、代わりにポケットティッシュを放りこんだ。

 ラーメン屋、銀行、ローン会社、タクシー、様々な 職種の中で一際目立つ赤と黄のパチンコ屋のポケットティッシュ。

「めっちゃティッシュあるやん!集めてるんか!?」上司が背後から引き出しの中を覗きこんできた。

「いや、そういう訳じゃないんですけど…」と答えようとすると

「こいつ断れない性格なんですよー」と先輩が横入りしてきた。

 断れないのではなく、断る理由がないだけなのだが…。ま、どっちでも良いのだけど。


「よし!」担当しているラーメン特集の記事が一段落ついた。

 そろそろ昼休憩の時間だ。これだけラーメンの写真を見てると余計に腹が減ってくる。が、ラーメンを見るのは嫌になっている。

「なあ!昼飯なに食う?ラーメンでも食う?」先輩が僕のラーメンの記事を見ながら言ってきた。

 安月給の身からしたら1杯600円700円するラーメンは好ましくない。ましてや、さっきも言った通りラーメンを見るのは嫌になっている。ここは正直に

「いや、ラーメンは写真でお腹いっぱいです。近くの食堂にしませんか?」そう答えると

「また肉吸い定食か?まあ、安いし旨いしな。」先輩は少し小バカにしたように笑った。

 会社近くの食堂は、安い、旨い、多い、の3拍子揃った最高の店なのである。僕にとって、ではあるが。


「さ!飯でも食いに行きますか!」というタイミングで

「すまん!ティッシュくれー!」と上司が近付いて来た。鼻血だ。理由は分からないが鼻血を出している。

 引き出しを開けてポケットティッシュを取り出そうとすると

「すまんけど、コレクションのティッシュもらうでー」と引き出しからポケットティッシュを1つ取った。

「いやー、蓄膿の治療してから、しょっちゅう鼻血出んねん」ティッシュを鼻に詰めながら恥ずかしそうにしている上司は、なんだか新鮮だ。

「このティッシュ貰っといて良いか?」と聞かれたが、沢山あるうちの1つだし、断る理由もないので

「どうぞ」と快く献上した。


「さて!改めて昼飯へ!」引き出しを閉めようとした時

「おーい!このポケットティッシュ、ラーメンの無料クーポン付いてるけど、いらんのか?」と上司の声が。

 うそ!?無料!?セコいかもしれないが、ライスとチャーシュー追加しても500円でお釣が来る!ティッシュはいらないけど、クーポンだけでも返してもらおう!

 そう思って立ち上がろうとしたら

「いらんと思いますよー。ラーメンは写真でお腹いっぱいって言ってましたし。な!」先輩の、いらぬお節介が発動した。

「そーか。まあ、ラーメン特集やってたら嫌にもなるわな。んじゃ、ありがたく貰っとくわー」上司の、いらぬ気遣いも発動。

 フ、と引き出しの中のポケットティッシュに目をやると一際目立つ赤と黄色のポケットティッシュが目についた。

 おもむろに手に取り見ていると

「お!なんだかんだ言って興味あるんやん!今度一緒に行くか?」と先輩が肩を叩く。


 断る理由が無い。

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