75 ご挨拶③
私の想像以上に、デーヴィ様は昔から私を好いてくださっていたようだ。しかもご両親からの縁談を断ってまで……その情熱のおかげで、婚約できているのだと思うと感慨深かった。
穏やかなお茶会が続いていたが、急に部屋にノック音が響いた。
「失礼します」と入ってきたのは、髪の色は違うがデーヴィ様によく似たお顔立ちで眼鏡をかけた男性だった。きっと弟さんだわ。
「ミシェルさん、初めまして。メクレンブルグ家の次男フェリクスです。現在、王宮で法務官の仕事についています。年齢は兄上の六歳下の二十二歳です」
「初めまして。私、伯爵家のミシェル・ド・ロレーヌと申します。年齢は十八歳ですわ。どうぞお見知り置きを」
彼は何故かじーっと私を観察するように凝視している。私、何か変なのだろうか。
「この方が兄上が恋焦がれていたミシェル嬢か。なるほど、美しい。ねぇ、僕の方が年齢が近いし、ほぼ同じ顔だし僕にしませんか?色々と若い方がいいでしょ……ね!」
彼は笑顔で私の手をぎゅっと握り、ウィンクをしている……ヘンリーさんみたい。見た目と法務官という仕事柄、真面目な方だと思っていたのでびっくりして言葉がでない。
「お前は相変わらず軽いな!ミミに勝手に触れるな!だからお前には会わせたくなかったんだ!」
デーヴィ様は私からフェリクス様を引き離す。
「冗談ですよ。兄上の大事な婚約者を奪うつもりはないけど……でも本気でタイプ!会わせてくれないからおかしいと思ってたんだ」
「俺とお前の趣味嗜好は似てるから嫌なんだよ!」
「僕より年下のお義姉さんになるのか。なんかそれとってもイヤラシイ響きだよね」
デーヴィ様は弟さんの首を後ろから腕で絞めあげている。
「ごめんなさいね、うるさくて」
「馬鹿息子が二人だな」
とりあえずご両親と弟さんには、認めていただけたようで良かった。
♢♢♢
「デーヴィ様にもお話しましたが、私は公爵家夫人としてきちんとやっていけるか不安なのです」
お母様に正直にそうお伝えした。
「確かに貴方は治癒士として働いていらっしゃるから、普通の公爵夫人としては生きていけないわ」
「はい、それがご迷惑にならないか不安で」
「大丈夫よ、少しのことで揺らぐ公爵家ではないわ。家のことはデーヴィドがフォローすればいいし、貴方は働いてる分色々な人脈もあるし素晴らしいことだわ。そうだ、今後貴方達につく使用人も紹介しましょう」
お義母様は家令のジャンさんと女中のライラさんを紹介してくださった。お二人ともデーヴィ様の十歳から十五歳上くらいかしら?
「ジャンさん、ライラさん初めまして。私、ミシェルと申します。デーヴィド様と婚約させていただいていて、これからお世話になりますのでよろしくお願い致します。至らぬ点は教えていただけると嬉しいです」
私は笑顔で軽く頭を下げた。
「ミシェル様、お会いできて嬉しゅうございます。が、使用人に頭を下げてはいけません」
「そうですよ。私達のことはどうか敬語もなしで、呼び捨てにしてくださいませ。若奥様になられるのですから」
若奥様……そう言われてぽぽぽっと頬が染まる。
「ミシェル様!本当にありがとうございます。坊っちゃんはもうご結婚されないと諦めていました」
「ええ、使用人一同ミシェル様がデーヴィド様を好いてくださるように祈っていましたわ。それに素直な反応も本当にお可愛らしくて……誠心誠意お仕えいたしますわね」
この二人も私を歓迎してくださっているようで安心した。




