【デーヴィド視点】馬鹿な男
数日前まであんなに幸せだったのに、俺は何してるんだろ。今日もミシェルに無視された……顔が見れているだけましだが精神がもたない。
手紙や花も送っているが返事も返ってこないし、家に直接行っても「頑なにお嬢様は会いたくないと言われておりまして」と申し訳なさそうな顔をした執事に断られる。
「まさか、こんなに避けられるなんて」
彼女は俺が初めての恋人だと言っていたし、年齢も十も下だ。恋愛に慣れてないからゆっくり進めてくれとも言われていたのに……婚約した喜びとそれに伴う独占欲でいっぱいの俺はどうかしていた。
彼女が他の男に笑いかけるのも、治療とはいえ他の男の体に触れるのも嫌でキスをして自分の存在を彼女に刻みつけたかったのだ。
しかも、俺は彼女に触れるのが気持ち良くて……暴走した。それなのに、キスは彼女が無防備だからしたのだと自分を棚に上げて責めた。どう考えても最悪だ。
「嫌って言ってたのにな」
強引だってし、拒否しても口付けをやめない俺が怖かったかも……愛してる人を怖がらせるとか自己嫌悪で吐きそうだ。
「おい!あんな幸せ絶頂だったのに、なんで喧嘩してるんだ。仕事に支障を出すな」
怒ったニコラが宿舎の俺の部屋までやってきた。こいつはプライベートだとずかずか無遠慮に入ってくる。
「俺が馬鹿な男だからだ……」
「お前が馬鹿なことは知ってる。何やらかしたんだよ?まさか昔の女のことで揉めてんじゃねぇだろな」
「違う。俺が……無理矢理キスしたから怒った」
ニコラは困惑した表情をしている。
「はぁ?お前ら婚約までしておいて、口付けもまだだったのか。ただ、無理矢理するのは良くない。ただでさえ彼女は若いのだからペースを合わせるのは大人の義務だ」
「さすがにそれはもう済ましてた。キスしたこと自体よりその、場所が問題で……し、執務室でしたら怒っちゃって」
ニコラの目がじとっとこちらを睨み、軽蔑の眼差しに変わる。
「ケダモノ」
ソウデスヨネー、と俺はがっくり肩を落とす。
「馬鹿じゃねぇの?真面目な彼女が職場で嫌がること位わかるだろう」
「頭ではわかってたさ。でも、彼女は男に無防備過ぎて、心配だしヘンリーとか隊員達にも嫉妬してしまってつい……」
ニコラは、呆れながらため息をつく。さっさと謝れと言われたが、何度も謝ろうとして無視されていると答えた。
♢♢♢
「悪い、フォローしようとしたが火に油だった」
ニコラがミシェルに許してやってくれと頼んでくれたそうだが「あんなことを人にペラペラ話すなんて許せない」とさらに彼女の怒りをかったそうだ。
「いや、大丈夫だ。巻き込んですまない。自分で何とかする……」
俺は力なく弱々しくそう告げる。約一週間彼女とまともに話していないだけで、俺はこんなにも駄目になってしまう。
「もしかして、喧嘩の原因は俺がからかったせいです?」
ヘンリーの声が聞こえて、つい不機嫌になる。
「やめてくださいよ、二人が喧嘩してたら俺まだいけるかも?って諦められなくなっちゃうでしょ」
「そのまま諦めてくれ。心配するな」
「悔しいけど、団長は選ばれた人なんですから。嫉妬は上手く隠してドンと余裕ぶってないと、みんなに優しい彼女とは付き合えません」
「わかっている」
「何もわかってない!あの時、彼女はあんたのために命懸けたんだ。そこまでされたのに、あの人に愛されてる自信を持てない団長がおかしい。彼女を傷付けんじゃねぇよ!」
ヘンリーは俺の胸ぐらをつかんで、睨みつけながら強い口調で怒りを露わにした。
「……その通りだ。俺は彼女のことになると格好悪くて自分でも呆れている。明日ちゃんと話してくる」




