【デーヴィド視点】無防備
「お前らいい加減にしろよ」
俺は訓練という名目で、昨日人の金で死ぬほど楽しんだであろう隊員達をボッコボコに倒していく。
「ひぃいー怖い」「もう勘弁してください」「吐きそう……」
そんな声を無視しながら、剣の稽古をつける。そんな中で唯一ヘンリーだけは倒れない。
「二日酔いのくせに動きが鈍らんのは流石だな」
「俺、酒強すぎて飲んでも酔わないんで」
その時ヘンリーは深く踏み込み、俺の耳元に近付きニヤリと笑って囁く。
「ロザリーさんが団長に『初恋が叶って良かったねって伝えといて』だそうです」
その言葉に俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。こいつロザリーに会いに、わざわざクラブに行ったのか!彼女は俺がまだ少女だったミシェルへの気持ちを断ち切ろうと、わざと夜の街に通っていた頃の馴染みだ。
しかも、彼女には俺の抑えられないミシェルへの恋心を相談しつつも流れでそのまま付き合うという最低なことをしていた記憶がある。
「そんなに昔からミシェルちゃんのこと好きだったなんて驚きです。でもロザリーさん妖艶でセクシーな女性だし、団長はミシェルちゃんが好きなのにあえて逆のタイプばっかり選んで……面白い、くくくっ」
「ミシェルの代わりなどいないからな。お前、このこと彼女に伝えたら許さないからな」
「怖ぁーい。請求書は彼女の慰謝料も上乗せしての価格ですからね」
「ああ、払う。だが、そろそろ黙れ」
俺はヘンリーを渾身の一撃で吹っ飛ばした。ドンっと地面に背中を強く打ち、頬や手足からも派手に血が出ている。
「くっ……痛ぇ、手加減なしかよ」
ヘンリーが動かなくなったので、俺は執務室に戻る準備を始める。その時、急にヘンリーが大声で彼女を呼んだ。
「ミシェルちゃーん!助けて!」
その声に気が付き、遠くからミシェルがパタパタと走ってくる。
「わあ、血が出てますね。すぐに治します」
はぁはぁと息を切らして、少し汗をかきながら走って来た彼女は、ヘンリーの頭を膝に乗せ全身に治癒魔法をかけ始めた。
ヘンリーは俺をチラッと見て、ベーっと舌を出した……こいつ、わざと。苛つく手がブルブルと震えてくる。
「はい、終わりましたよ。あれ?他のみんなも何かボロボロですね。今日の訓練激しかったんですね」
ミシェルは次々と隊員達の治療を施していくのを、俺は見つめていた。
「息切れしてるミシェルちゃんって、ちょっと色っぽいですよね」
わざとそんなことを言うヘンリーを「よっぽど死にたいようだな」と追いかけ回したが、あいつの逃げ足は早くささっと身を隠した。
俺は堪えきれず、治療を終えた彼女の手を引いて執務室に戻った。どうしたの?と焦る彼女を俺は無視して執務室の扉を閉めた途端、強引に甘い唇を奪う。
「ふっ……だ……め。嫌……ここ仕事……場」
彼女の「だめ」は男を煽ることをわかっていない。しかも、仕事場でするのがむしろ背徳感があってイイのだ……俺はその後もくちゅ、くちゅっと濃厚な口付けを強引に何度も繰り返した。
「嫌って言ったのに!デーヴィド様の馬鹿っ」
彼女は涙目で睨みながら怒っている。
「君が男に無防備すぎるのが悪い」
「なにそれ。普通に仕事してただけなのに!みんなは仲間でしょ。もう私に触れないでください!」
「ちょっ、ミシェル話を聞き……」
話の途中で彼女は部屋を駆け出していった。ああ、しょうもない嫉妬で彼女を怒らせてしまったなと頭を抱えた。彼女といると自分の愛ばかりが大きく感じて辛くなる時がある。
しかし、この時の俺は、まさか彼女にあれほど無視されるなんて思ってもいなかった。




