9 シャワー
訓練場まで帰ってきた所で団長に声を掛けられた。お昼のことがあったので気まずかったが、上司を無視するわけには行かず足を止める。
「今回もミシェルのおかげで一人も死傷者が出なかった。礼を言う」
「いえ、治癒魔法をかけるのが私の仕事ですから。当たり前のことをしたまでです」
「血だらけだな……仕方がないとはいえ、討伐の度に君のこの姿を見るのは辛いな」
団長は私の姿を痛々しそうな目で見ている。きっと優しいこの人は女性が血だらけなのが耐えられないのだろう。
「洗えば取れるので大丈夫です。見苦しいと思うので、シャワー浴びてきますね」
わたしの言葉を聞いて急に団長は険しい顔になった。
「……変なことを聞くが、今までどこでシャワーを?君は家からの通いだから宿舎の部屋がないだろう」
「騎士団のシャワー室に決まってるじゃないですか」
どうして当たり前のことを聞くのだろう。この人は団長なのに騎士団の設備も知らないの?
「……は?」
私の言葉に団長は絶句し、眉をひそめている。
「まさか男どもが共用で使うあんな場所で今まで君がシャワーを浴びてたなんて……危ないじゃないか!」
団長が怒ったような大きな声を出した。
「だって、女性専用のシャワー室なんてないですし。今まではお兄様が人払いをしてくださって、浴び終わるまで前で待機していただいていたのです」
大きな声に驚きビクビクしてしまう。だってそれ以外どうしようもないではないか。
「いや、すまない。つい大声を出してしまった。今まで上司である私の配慮が足りず申し訳なかったな。正直、君のシャワーのことなど考えたことがなかった」
団長は青ざめ、あからさまにショックを受けている。その様子に私の方が申し訳なくなる。私が騎士団で初めての女性なのだから、彼がそんなことなど頭になかったのは仕方がない。
「ところで、今日はルーカスが不在だがどうするつもりだったんだ」
「お兄様が居ないので、私が使っているからシャワー室に入らないでって入口に貼り紙でもしとこうかと……」
あははと笑う私の言葉を聞いて、団長は大きなため息をついて頭を抱えている。
「君は男がどういうものかわかっていない。そんな貼り紙は逆効果だ!君が今シャワーに入っていると全員に知らせているようなものではないか」
「え?みんなに知らせるために貼ってるからいいのでは?だって入って来られたらさすがに困まりますし」
「君は本当に……今まで何もなくて良かったよ」
呆れたような声でまたため息をつかれる。この人は何を怒っているのだろうか。
「とりあえず今日は私の部屋に来い。次回以降のことは早急に考えるから」
「ええっ?」
とんでもない提案に私は困惑した。