【デーヴィド視点】失恋代
色々あったが、ミシェルと無事婚約し隊のみんなへもきちんと報告した。隊員達には冷やかされたが、みんな祝ってくれて俺も彼女も嬉しかった。
幸せすぎて怖いな――。彼女を失う恐怖を味わった俺は、あんな辛さはもう味わいたくない。
本当は彼女を部屋に閉じ込めて、俺だけを見て、俺だけに笑って、俺だけを頼って欲しい。どろどろに甘やかして、俺がいないと生きていけないと思って欲しい。
だが、その醜い俺の考えは間違っているとちゃんとわかっている。
そんなことをすれば、ミシェルの笑顔や魅力が消える。彼女は沢山の人の中で、みんなと関わって仕事をしている時が一番輝いている。久しぶりの出勤で隊員達と笑い合っている姿をみて……嬉しさと少しの嫉妬が込み上げる。
「結婚すると決まっても……まだ嫉妬するもんだな」
はぁとため息をつき、俺が安心できる日は一生来ないなと思う。だが、これは贅沢な悩みだ。彼女を妻にするのだ……近付く他の男を蹴散らすために俺も日々努力しなければ。
♢♢♢
「団長、お話があります」
俺の執務室にヘンリーがやって来た。
「なんだ?改まって」
「俺、北の要塞に行きたいです。あそこ魔物多いし困ってるんでしょう?誰か行かせろと通達が来ているはずだ」
俺は言葉に詰まる。まだみんなに話していないのに、この男はそんな情報どこから手に入れているんだ。
「急に何を言っている。お前は隊長任務があるだろう?それにあそこに行けば数年は帰れない」
「だから俺にぴったりなんじゃないんですか。第一騎士団から離れたい気持ち……貴方ならわかるでしょ」
わかる、痛いほどわかるが。だが……
「俺はここにいる方が辛い。ただ、それだけでなく前向きな気持ちもありますから!あっちで戦果あげて出世したいんで」
「わかった……確かに上からこの話が来た時に、真っ先にお前の顔が浮かんだ。お前ならあの要塞を守れる実力がある」
「ありがとうございます。俺、いずれ貴方を超えますから」
ヘンリーは笑顔で宣戦布告してくる。
「ふっ、大口を叩くな。今もこれからも俺がお前に負けるなどありえない」
「フッ、相変わらずですね。最後にお願いです……ミシェルちゃんにはギリギリまで言わないでください。気を遣わすだろうから」
「……わかった」
ヘンリーはきっと向こうで隊長としてみんなをまとめ上げて活躍し、いずれ出世するだろう。部下の成長に嬉しさと自分の手を離れる寂しさを感じた。
♢♢♢
「おい、ニコラ……これは何だ?」
「ああ、隊員達の飲食代です。経費では落ちないので団長の私費でお願いしますね」
俺の手には飲食代としてはありえない高額の請求書が届いている。騎士達の三ヶ月分の給料レベルの金額だ。
「は?」
「くっくっく、それは隊員達の失恋代だとよ」
ニコラは笑いながら「みんなお前とミシェル嬢の婚約発表を聞いて傷付いたそうだ」と請求書をぴらぴらしている。
「普通の飲食代ならいいが……なんで高級クラブ行ってんだよ」
「あはは、俺がお前のツケで高い酒を飲むことは許した。でも、まさかクラブ貸切りにするとはやられたな……こんな大胆なことするのはどうせヘンリーだろ」
怒りでぐしゃっと請求書を握りしめた。
「あいつら、今日絶対二日酔いだろ。覚えとけよ」
本音を言えば、俺にとってこれくらいの額問題はない。問題はないが……手荒な祝福は受けて立とうではないか。




