68 帝国王との別れ
迎えに来たデーヴィド様に、ミシェルは危機感が足りないとしっかりお説教された。
「でも、きちんとお別れができました」
「そうだな……二人で幸せになろう」
「はい」
♢♢♢
次の日、レオナルド様が帰国されるため、私達家族とデーヴィド様も王宮に来るように言われた。
陛下との謁見の間に着くと、そこには王族達もずらっと顔を揃えていた。あのヴィクトリア様も来られている……これは何なのだろうか?
「ミシェル嬢、体はもう大丈夫なのかね?」
畏れ多くも陛下から私にお声がかかる。
「ありがたきお言葉感謝致します。もう大丈夫です。先日は、陛下にもご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
「いや、無事なら良い。今回の件では……私のせいで随分とミシェル嬢を悩ませてしまったな」
陛下は眉を下げて申し訳なさそうな顔をされている。
「いえ……とんでもございません」
「皆を呼んだのは他でもない、アルシャ帝国と我が国は友好条約を結ぶ」
それは――私との婚約が条件であった筈だ。どういうことなのかと、レオナルド様の方を向く。
「実は、我は内戦で瀕死の状態を治癒士であるミシェル・ド・ロレーヌ嬢に救ってもらった。その恩はいくら礼をしても足りぬほどである。彼女がこの国にいる限り、ハーメルン王国と我が帝国が争うことはないと約束しよう」
ざわざわと驚きの声が漏れる。
「聞くところによると、ミシェル嬢は交流試合で相手をしてくれたデーヴィドと近く結婚するそうだな。我と互角に闘った男なら恩人である彼女を任せられるであろう。この友好条約はアルシャ帝国からの祝いと思って受け取られよ」
「ありがたき……幸せにございます」
私とデーヴィド様は並んでお礼をのべる。
「私はこの条約に伴い、もしレオナルド王に何かあれば、我が国の治癒士を派遣することに決めた。ロバート、それで良いな?」
「はっ、陛下に異論はございませぬ」
レオナルド様はお父様の返事を聞き、頷いた。
「最後に彼女を蔑ろにすることは、このアルシャ帝国王を蔑ろにすることと同義と心得よ。例え……この国の王族でも許さぬ」
レオナルド様はヴィクトリア様の方をチラリと見て、ニヤッと笑った。彼女は不機嫌そうに目を逸らした。
「そういうわけだ。レオナルド王から直接皆に話したいと申し出があり、このような場をもうけた。今より条約を締結する」
陛下とレオナルド様が条約の書類に判を押した。
「これでハーメルン王国とアルシャ帝国は友好国だ」
わぁーっと割れんばかりの拍手が聞こえる。レオナルド様の優しさに心がいっぱいになる。彼とヴィクトリア様のこともきっと知っていらしたのだ……
(――ありがとうございます)
レオナルド様はその後すぐに王宮を出て、帰る準備にかかっていた。私は一言お礼を言いたくて、走って遠くにいる彼の傍に駆け寄る。
「これ以上近付かないで下さい」
マルク様の冷たい声に行く手を阻まれる。
「お礼をっ、一言だけ言わせていただけませんか」
「ミシェル様はただの伯爵令嬢です。貴方から王に声をかけれる身分ではございません」
そう……それはその通りだ。今まで普通に話せていたことがあり得ないことだったのだから。
ヒヒーンッ
その時、馬が嘶き真っ黒な馬に乗ったレオナルド様が目の前に颯爽と現れ「マルク、よい」と指示をだした。
「ミシェル嬢、幸せになれ」
「ありがとうございましたっ」
彼はその言葉に美しく微笑み馬で駆けて行った。




