67 御守り
「あの男はだいぶ年上のくせに子どもっぽいし、狭量だな。シェルは苦労するぞ」
私は、はははと苦笑いをする。
「この五分だけ、今まで通り普通に話してくれ。それが終われば僕は王として君に接するから」
「わかりました。レオ様……私を好きになってくださってありがとうございました」
「それはこっちの台詞だ。君と出逢えて、好きになれて良かった」
お互い見つめ合い、微笑み合う。
「本当は返すべきなのだろうが、シェルのピアスは貰っておいてもいいだろうか?これはもう僕の御守りになっているから……だめかな」
レオナルド様はしゅんとした子犬のような目で私にお願いをしている。この人はこんな可愛いらしい顔もできるのか。
「ええ、もちろんです。これはあの時の彼にあげた物。返してもらうのはおかしいですわ」
私は少し貸してくださいと言い、手の中のピアスを両手で包みその上からふーっと息を吹きかけ祈りを込める。レオナルド様は不思議そうにそれを見ていた。
「ふふふ、おまじないです。実際の効果はわかりませんが治癒士の祈りを込めた物を持つと安全が増すという迷信です」
私は「どうぞ」とピアスをそっと彼に渡した。
「君が祈りを込めたものなら、さらにご利益がありそうだ。御守りとして大事にする。ありがとう」
そう話していると私は、彼の胸の包帯が巻かれていることに気が付いた。
「あの、レオ様っ。この傷はあの時の物ですか?申し訳ありません、まだ誰も治癒魔法をかけていないのですね」
「君がそれどころではなかったからな。あの時に命に関わる大きな傷だけ治してもらったのさ。これは軽症だからこのままでも大丈夫だよ」
「いけません、最後に治させてください」
私は「失礼します」と彼のシャツを半ば無理矢理ささっと脱がせ、包帯を取った。「治療だと積極的なんだな」とボソッと呟き、なぜか彼は頬を染め恥ずかしそうにしている。
「傷口を触ります、少し痛いですよ」
私は傷口に触れ、治癒魔法をかける。ぽわーっと手に光が包み込み、傷口が塞がっていく。
トントントン
「失礼します。アルシャ帝国王、その……もう五分はとっくに過ぎて……」
ノック音と共にデーヴィド様が部屋に入ってくるのがチラッと見えたが、私は今集中しているので手も離せないし喋ることもできない。
「なっ!ミシェル!!何を」
何と言われても治療だ。後ろの焦ったようなデーヴィド様の声は何なのだろうか?
「っくっくっく、これは愉快だな」
レオナルド様は声を押し殺して笑っている。
「はい、終わりました。痛くないですか?」
「ああ、痛くない。ありがとう」
そう言うと、レオナルド様は私の手を引きガバッと抱きしめた。今更ながら、素肌の彼に気が付きその筋肉質な胸にダイレクトに触れて頭が混乱する。
「最後にもう一度だけ聞くけど、僕の物になる気はない?」
抱きしめられたまま、耳元で蕩けるような甘い声が聞こえてくる。
「な、なりません」
「残念。シェルを愛してたけど……もう本当にさようならだね」
私の額にちゅっとキスをして体を離してくれた。
「何もしないと仰っていましたよね!こ、こんな半裸で抱きしめるなど」
デーヴィド様は怒って、私をぐっと後ろに隠した。
「傷の治療をしてもらっていたのだ。口付けは挨拶程度のものだ、気にするな。心の狭い男はすぐに振られるぞ」
そして、疲れたから二人とももう去れと無理矢理部屋を追い出されてしまった。




