【デーヴィド視点】許さない
決闘の朝――俺は首からかけたミシェルのペンダントに勝利の誓いを込めてキスを落とした。
(ミシェル、必ず助けるから)
俺は君を守るために生まれてきたんだと思う。今日の日のために、俺は英雄と呼ばれるほど剣の実力をつけたのではないだろうか?
闘技場に着いたら、真っ先にミシェルの白いドレスが目に入る。あいつが選んだドレスというのが腹が立つが、本当にまるで天使のように美しかった。
「シェル、だめじゃないか。僕が愛した印を隠したら」
あいつはそう言うと、ミシェルの首を無遠慮に擦った。そして俺は見えてしまった……彼女の首筋に赤い痕がくっきりとあることを。
あいつ、ミシェルを襲ったのか?あの首筋に触れた……?どこまで?ありえない。許せない。
ぶわっと嫉妬と怒りでいっぱいになり、衝動的にアルシャ帝国王の胸ぐらを掴む。
「絶対にお前を許さない」
俺はこいつを絶対にぶっ飛ばすと心に誓う。
闘いの合図と共に激しく打ち合いが始まる。あいつは身軽に舞うように剣を使うので、俺は力で押していく。認めたくはないが……剣も体術も強い。
お互いほぼ互角で、半刻以上打ち合っており二人ともたらりと汗が流れてた。
そんな時に、あの男はニヤリと笑い何故か唇をペロリと舐めた。
「……シェルの唇はとっても柔らかくて甘いよね」
俺はその言葉にカッと頭に血がのぼった。これは俺を動揺させるための挑発だと瞬時に自分に言い聞かせ、冷静な気持ちを取り戻す。
「僕の唇傷ついてるでしょ……彼女情熱的だから強く噛まれちゃって驚いたよ」
あははと笑っているアルシャ帝国王の唇に目がいく。確かに僅かに傷がある。こいつ、唇まで無理矢理奪ったのか!そして彼女は抵抗して噛み付いたのだろう。
「……殺す」
俺はこいつに押さえつけられ怯えたミシェルの様子を想像して胸が痛んだ。さすがに冷静ではいられない。
「気の乱れは、剣の乱れだよ」
俺の一瞬の隙を、こいつは見逃すはずもなく間合いを詰めて剣を振りかざした。俺は体勢を無理矢理変えて剣を避ける。
ブシュッ
「――っ!」
俺の右腕からポタポタと血が出る……切れてはいるが傷は深くはない。こんな傷、ミシェルの痛みに比べたら何ともない。
「あれ?腕を切り落とすつもりで剣を振ったのに。やっぱり君強いね」
「俺の腕の一本くらい欲しけりゃくれてやるが、ミシェルは返してもらう」
俺はぐいぐいと剣で圧をかけていく。体格差があるため、単純な力は俺の方が強いはずだ。
「この馬鹿力っ!」
こいつが圧に耐えられなくなり、剣を引いた瞬間に俺は首元を狙いを定める。
チッ、と舌打ち聞こえたが体勢を変え避けられたため剣は胸を掠めるだけになった。胸から血が滲んでいる。
「一対一の対決で、僕が傷付けられるなんてね。でももうお遊びは終わりだ」
「ああ、勝負をつけよう」
お互いこれが最後だと言うように、全力を込めて剣を振り抜く。
(――相討ちでも構わない)
ザクッ ブシュッ
手には肉を切り裂く嫌な感覚。そして、激しい痛みと生温い血の温度と匂い。この血は俺のなのかこいつのなのかすらわからない。
――痛みで息ができ……ない。
「デーヴィド様っ!だめっ!死んではだめ!!」
泣き叫ぶその声に一瞬だけ意識が戻る。
――天使が迎えに来たみたいだ
いや、天使ではなく……真っ白な服を真紅に染めたミシェルが泣いている。ああ、泣かないでくれ……俺は君の涙が苦手なんだ……
「ミシェ……ル、あい……してる」
「デーヴィド様っ!デーヴィド!!だめ!目を開けて……私も愛して……る」




