8 治癒魔法
午後の魔物討伐に私もついて行く事になった。第一騎士団の治癒士は兄のルーカスと私しかいない。そして、お兄様は現在二週間の遠征中のため不在……つまり実質は私一人なのだ。
「ミシェルちゃん、こいつの怪我が酷いっ!」
「はい、すぐに行きます」
魔物の爪にやられた胸の傷からドクドクと血が溢れ出ている。これは酷い。意識はあるが、呼吸が弱い……すぐに治さなければ。
「触ります。少し痛いですが我慢して下さい。絶対助けますから頑張って!」
傷口に直接手をかざし、治癒魔法をかける。手から光が出て周囲がじんわりと温かくなる。だんだんと傷が閉じていき数分で完全に塞がった。
胸に耳を当てる。トクトクと心臓がちゃんと動き呼吸も安定している。良かった間に合った。
「大丈夫ですか?傷は塞がりましたよ!」
「ミシェ……ルちゃん、あり……がと」
「いいえ、無事で良かったです」
彼の意識がしっかりしたことにホッとし、私は笑顔でそう答えた。
その後も何人かの軽症者を治し、今回の討伐は無事に終わりを迎えた。
「ミシェルちゃん、お疲れ。全身血だらけだけど、大丈夫なの?怪我してない?」
ヘンリーさんは戦場に行くたびに私の様子を心配して見に来てくれる。やっぱり優しい先輩だ。
「ああ、ヘンリーさんお疲れ様です。これは全て治療する時についた血ですよ」
私は顔も服も血でドロドロに真っ赤に染まってしまっている。治療時に直接患部に触れないと治せないため、どうしても毎回こうなってしまう。
「いつもありがとうね。でも君の綺麗な顔が汚れて……可哀想に」
無傷のヘンリーさんの顔と隊服は汚れ一つない。ポケットからハンカチを出し、私の頬の血を優しく拭ってくれる。
「ヘンリーさん、ハンカチ汚れちゃうからやめてください」
「君の方が大事だから、汚れなんてどうでもいいよ」
「!?」
「それかハンカチが嫌なら、一緒にお風呂に入る?俺が隅から隅まで全身綺麗にしてあげる」
冗談っぽく投げキスをしながら私を揶揄ってくる。真顔で私が大事だとかいうから一瞬ドキッとしてしまったではないか。この人はいつもチャランポランなのに、また騙された。
「いやらしいこと言わないで下さいっ」
私は怒ってプイっと違う方へ歩いて行く。
「あーあ、また怒らせちゃった」
その二人の様子を、団長が少し離れた場所から不機嫌に眺めていたことを私は知らなかった。