61 出逢えたのは運命
「さあ、こんな話はやめてご飯を食べよう」
彼は爽やかにニコッと笑ってポンと手を叩く。その合図で途端に、ディナーが運ばれてくる。
もぐもぐと無言のまま食べていると……レオナルド様からの視線を痛いほど感じる。
「レオナルド様……私を見るのではなく、食事を食べてくださいませ」
「レオね。シェルが言い出したんだから、そう呼んでくれないとこれからは返事しないよ」
くっ……確かに私が言い出したことだ。今は従うしか仕方がない。
「レオ様、お食事を。冷めてしまいますわ。せっかく美味しく作ってくださったのにシェフに悪いです」
「シェフに悪い……ふふっ」
レオナルド様は私の言葉を聞いて笑い出す。私はなぜ笑われたのか不思議で眉を顰める。
「ごめんよ、やっぱりシェルはいいよね。顔も知らないシェフにまで優しいなんて……好きだな」
私はいきなりそんな事を言われて驚き、ゴホゴホとむせてしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。レオ様が急に変なことおっしゃるから」
「変じゃないよ。今まで僕にすり寄る御令嬢達なんてろくでもないやつばかりだったからね」
レオナルド様は心底嫌そうに顔を歪めた。
「女性から近づいて来られるということは、レオ……様の事をお慕いされているのでしょう?自国の御令嬢と結婚されるのが一番よろしいのでは?」
「嫌だよ。僕が次期王の有力候補だとわかってから、急に女達は群がってきた。舞踏会に行けば囲まれて、あからさまに胸をおしつけられる。そして僕の寵愛を受けようとお互いが醜く足の引っ張り合いだ。もっと酷いと、僕の寝所に見知らぬ女が裸で待っていることもあった」
「寝所に裸……」
私はそれを想像して頬が染まる。そ、そんな大胆なことを女性からなさるなんて信じられない。
「その反応……ふふ、頬を染めて可愛いね。まぁそんな女ばかりで僕は女性不信になりそうだったよ。でもそんな時に君に出逢って一瞬で恋に落ちたんだ」
レオナルド様は目を細めて微笑んだ。
「レオ様は私がたまたま助けた事で、勘違いなさっているのですわ」
「この胸の高鳴りが勘違いなものか。きっとあの時出逢えたのは運命だったのだ」
この人は何を言っても諦めてくれそうにない。レオナルド様は私に近付き、顔を覗き込んだ。
「明日の勝負が終われば、シェルは僕のものだ。覚悟しておいて。手加減できないから、間違って殺しちゃったらごめんね」
私の顎に手を当てくいっと上げられる。強制的にレオナルド様と視線が合う。
「デーヴィド様を殺したら貴方を一生許しません」
私はレオナルド様を真っ直ぐ見つめ、ギッと睨みつける。
「君は悪い女だね、僕の前で他の男の名前を呼ぶなんて」
彼は嫉妬に染まったギラギラした目をしている。怖いな……と思っていると急に私の首筋に顔を寄せ噛み付くように強く口付けられる。私は暴れるが、彼の体はびくともしない。
「……痛っ」
その声にレオナルド王は満足気に顔を上げ、色っぽくペロリと舌を舐めた。
「シェルの白い肌に僕の印は映えるね」
私は涙目で震えながら首をゴシゴシ拭う。
「僕は今まで口付けを強請られることはあっても、嫌がられることはなかったな。シェルは新鮮でいいね」
彼はふふっと笑い、では楽しみは明日に取っておきたいからそろそろお開きにしようと言い「おやすみ、僕の天使」と去っていく姿を私は呆然と見ていた。




