60 執事のマルク
私は琥珀色のドレスにわざわざ着替えさせられて、一緒に夕食を取るためにレオナルド様を待っている。
彼の瞳の色にわざわざ着替えさせられとても不愉快だが、今は反抗すべきではないので身を任せた。
「レオナルド様はもう少しで来られますので」
そう言うのは、王の側近である体格の良い眼鏡をかけた賢そうな男だ。
「あなたは……」
「まだ名乗っていませんでしたね、これは失礼致しました。私レオナルド様の執事マルクと申します」
胸に手を当て美しく礼をしている。この人強そうだし執事という雰囲気ではないけれど。
ついじっと観察するように見てしまい、バチっと彼と目が合ってしまった。
「ミシェル様からそのように熱い視線をいただけるとは光栄です」
揶揄うようにフッと笑っている。この人絶対性格が悪い!腹が立つ!でも私は貴族令嬢の仮面を被り直した。
「お詫びいたしますわ。執事には勿体ないくらいの見事な体格をされているので、私見惚れてしまいましたの、うふふ」
「私はただの執事ではなく、王の盾でもあります」
「なるほど」
「ただ、冗談でもレオナルド様の前では他の男に今のような発言はお控えください」
私は意味がわからず、首をかしげるとそれを見て彼は困ったように頭を抱えはぁとため息をついた。
「王は本気で貴方に惚れていますから、嫉妬を煽るような発言はお控えくださいと申し上げているのですよ……お互いのために」
「惚れてるなど、何度言われても信じられません。私とほとんど話したこともありませんのに」
私はプイッと顔を背けて不機嫌さを露わにする。
「ふっ……貴方は随分と初心ですね」
その発言にカチンと来て顔を真っ赤にして睨みつける。
「恋愛に時間は関係ありません。現に、王はミシェル様に出逢われた日からずっと貴方を探しておいででした。毎日つまらなさそうだった王が、貴方に早く逢いたいと目を輝かせていらっしゃった。こんなことは初めてです」
そんなことを言われても私は知らない。
「ミシェル様が王の心身共に蘇らせたと言っても過言ではございません。我々の主を救っていただき心より御礼を申し上げます」
彼は挨拶の時よりも深くお辞儀をしている。
「やめてください、私は倒れている人をただ助けただけです。王様だから助けたわけではありません」
「……だからですよ。王と知らずに助けた貴方だから良いのです」
その時、扉からノック音が聞こえすぐにガチャリと扉が開く。
「シェル、すまない。待たせてしまった……」
レオナルド王はわたしとマルク様を見て言葉を詰まらせ、ギロっと彼を睨みつける。
「マルク、離れろ。確かに僕は先に用意しておけと頼んだが、彼女の近くにいろとは一言も言っていないが?」
レオナルド様が発する言葉で部屋の空気が凍るほど冷たくなる。この若さでこの威圧感はなんなのだろう。
マルク様は「ほら?」という視線を一瞬だけ私に送り「失礼いたしました、ミシェル様にご挨拶をさせていただいただけです」と後ろへ下がる。
レオナルド様はその様子を冷たい様子でみた後、すぐにパッと笑顔を作った。
「ごめんね、怖がらせちゃった。僕はどうしてもシェルのことになると狭量になるみたい。君はもてるみたいだしね……」
「私はもてません」
「無自覚かい?それは危険だね。君はもてるだろう……窓から邪魔な虫が入ってくるくらいには」
彼はニヤリと笑っている。この人……ヘンリーさんのこと気が付いている!私の顔はサッと青ざめる。ヘンリーさん無事でいて下さい。
「そんなに怯えなくても何もしてないよ、捕まえたらシェルが悲しむと思って見逃がしてあげたから。でも……次はない」
やはりこの人は恐ろしい人だわ。




