【デーヴィド視点】必ず勝つ
「ミシェルちゃんからこれ」
ヘンリーは本当に王宮に忍び込み、会ってきたらしい。彼からミシェルのペンダントを渡される。それを大事に両手で包み込んだ。
「あの部屋には紙もペンも処分されてたから……返事は貰えなかったんです」
「いいんだ。俺の気持ちを伝えたかっただけだから。危ない真似させてすまなかった、ありがとう」
「ミシェルちゃん、泣いてたけどとりあえず元気にしてました。酷いことされてる様子はなかった」
「よかった」
心の底からホッと安心する……大丈夫、すぐに助け出すから待っていてくれ。俺はネックレスを左胸の位置で抱きしめたまま祈るようなポーズで俯いた。
「団長、すみません。俺嘘つきました。彼女から……伝言があります」
ヘンリーの哀しそうな声に驚き、顔を上げる。
『心は貴方と常に共にあります』
俺はその言葉に心が満たされていく。……と、同時にこの役をヘンリーにさせるのは間違っていたと気がついた。彼は本気で彼女を愛していたのだから、俺にこんな言葉を伝えたくなどないはずだ。
「ヘンリー……感謝する。そしてこのようなことを頼んですまなかった」
「気にしないでください。俺から願い出たんですから。勝手に傷付いただけです」
ヘンリーは「振られたのに女々しいったらないですよね、笑ってください」と冗談っぽく言っているが本当の気持ちだろう。俺が……逆の立場ならやっぱり諦められるはずがない。
「笑うはずがない。それだけお前が真剣だったというだけだ」
俺はヘンリーの目をまっすぐ見て真剣にそう告げる。彼は目を大きく開き驚いたあと、その後苦しげに眉を寄せ目をつぶった。
「俺、人を好きになることがこんな苦しくて辛くて……幸せだって知りませんでした」
「ああ、そうだな」
「団長、愛されてて羨ましいです。彼女……助けてあげてください。俺にはその権利がない」
「必ず勝つ」
「デーヴィド第一騎士団長、ご武運をお祈りしております」
ヘンリーは片膝をつき、深々と頭を下げた。
♢♢♢
ヘンリーと代わるように、ニコラが部屋の中に入ってくる。この数日、俺は騎士団の仕事を丸投げしていたので事務報告しに来たのだ。
「悪いな、ずっとお前に騎士団を任せっきりで」
「そんなことは僕でどうにでもなる。逆にミシェル嬢のことはお前しかどうにもならない」
「……ありがとう」
「先程までロレーヌ伯爵とルーカスが陛下に考えを改めるように再度申し出ているようだが、感触がよくないそうだ。陛下の側近達はみんなミシェル嬢を嫁がせてアルシャ帝国から恩恵を受けるべきだと主張している」
「そうか。やはり、俺は明日アルシャ帝国王に勝つしかない」
「……ディヴ、大丈夫か?僕の前では気を張るな」
「本当は不安なんだ……俺次第で彼女の運命が変わってしまう。俺は死んでもいい……彼女だけでも幸せになって欲しい」
「馬鹿野郎、お前が死んだらミシェル嬢は幸せになれないことくらいわかるだろう」
俺はその言葉に曖昧に微笑む。
「アルシャ帝国王は、十八歳の若さであの大帝国の王の座を勝ち取った鬼神と言われてるんだ。命懸けでも勝敗は五分だ」
「恐ろしく強いのはわかってる。だが……」
「勝つよ。必ずな」
「ああ。お前は強い、大丈夫だ」
ヘンリーは俺の言葉に頷き、心配なのはわかるが明日のために休息を取れと肩を叩き部屋を出て行った。
俺はミシェルのペンダントを首からかけ、彼女がくれた刺繍入りのハンカチを抱きしめてベッドに横になった。
――お願いだ、俺から彼女を奪わないでくれ。




