59 私の幸せ
「うっ……ひっ……く……私、アルシャ帝国なんか行きたくない。デーヴィド様とやっと想いが通じたのに」
うん、うん、と相槌を打ちながらヘンリーさんはただ優しく私の話を聞いてくれる。
「そうだね、じゃあ明日はちゃんと団長を応援してあげなきゃだめじゃないか」
彼は私を宥め、言い聞かせるように頭を撫でる。
「だめ……なの。私が結婚しなきゃ……戦争するって言われた。私が嫁げばみんなに迷惑かか……らないから」
彼はそれを聞いて「卑怯だな」とチッと舌打ちをした。
「そんなことを言われて、一人で悩んで辛かっただろう……でも他のみんななんて関係ない。それでは君が幸せになれない」
「でも……」
「こんなこと言えば君は軽蔑するかも知れないが、俺はミシェルちゃんが幸せなら、他人が不幸でも関係ないね」
「そんな……」
「団長も同じ気持ち。なんなら、団長と俺で戦争だって受けて立つよ」
私は何も言えず、俯いてしまう。
「ほら、これは団長から手紙だよ」
私はその手紙をゆっくり開いた。
ミシェル、君に怖い思いをさせてすまない。
君を取り戻すためなら私は何でもする。
ミシェルがいないのであればこの命も不要だ。
愛してる、言葉にならないほど。
早く君に会って抱きしめたい。
私を信じて待っててくれ。愛している。
私はポロポロと涙が溢れた。あんな酷いことを言ったのに私を信じてくださっている。
「私……デーヴィド様が好き。ひっく……うっ……自分の幸せを願ってもいいの……?」
ヘンリーさんはニッコリと微笑んだ。
「当たり前だろ。やっと自分の気持ちに正直になった、いい子だ」
彼は、私の頭をぐりぐりと子どものように撫でる。私はそれをやめてくださいと頬を膨らましながら反抗した。
この部屋には便箋もペンもないため、返事は書けない。私は自分が付けているペンダントを彼に託す。
「必ず渡すよ、伝言は?」
「心は貴方と常に共にありますと」
「さすがに……るな」
「何か言われましたか?」
「いや、ちゃんと伝える。ミシェルちゃん、不安だろうが君が倒れたら元も子もない。きちんと食べてしっかり寝るんだよ」
「はい、本当にありがとうございました」
「俺は君の味方だから、君のピンチにはいつでも駆けつけるよ」
彼は私にウィンクと投げキッスをしてきた。
「ヘンリーさんは……相変わらずですね。ふふっ」
この人はいつでも私を励ましてくれる。
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。王宮に忍び込んだのばれたらまずいしね」
私はヘンリーさんが無事に帰れるようにわざと廊下に出て、監視の目を引きつけると申し出た。
「ミシェルちゃん、またね」
「はい。来てくださってありがとうございました。私が時間稼ぎをしている間に、無事にお帰りくださいね」
バタン
「……お嬢様のためにありがとうございました。貴方にはまだお辛いでしょうに」
『さすがに……堪えるな』
「あ、さっきの聞こえちゃった?まあ……まだ振られたばっかりだしね。でも振られても好きだから仕方ない。ユリアちゃん、よろしく頼むね」




