56 帝国王とのお茶会②
「そんなっ、酷いです」
私は帝国王に非難の声をあげる。
「酷い?僕は君が真剣に欲しいんだ。何でも使えるものは使うよ。アルシャ帝国とこの国は規模が違いすぎる……戦争で負けるのはどちらかはわかるだろう?しかも君の愛しの彼は騎士団長だ、生きて帰れるわけがない」
私は涙がポロポロと出てくる。彼はただの男ではない。大国をまとめる帝国王なのだ、こんなことでは心が痛まないらしい。
「君が僕の元に来ればこの国は発展し、彼の命も助かる。戦争の心配もない。君のことも僕が幸せにする……良い事だらけだろ?」
「あなたなんて……嫌いです」
ひっくひっくと泣きがら答える。こんなことを言って、私は不敬罪で捕らえられるかもしれないがもうそんなことどうでもいい。
「すぐに好きにしてみせるよ。アルシャ帝国に行けばあいつのことなどすぐに忘れるさ」
私は泣きながらもキッと彼を睨みつける。
「困ったな、泣いて怒ってる君も素敵だ」
私の頬を彼の手が包み込み、顔が近付いてくる。私は必死で顔を背け手で胸を押したがびくともせず、無理矢理深く口付けをされた。
くちゅっ
強引に舌を入れられ、このまま食べられてしまうのではないかという程激しく唇を吸われた。
(デーヴィド様と全然違う感触で気持ち悪い。嫌だ……私に触れないで)
「お嬢様っ!」
遠くでユリアの悲鳴が聞こえるが、彼女は帝国王の側近に動きを封じられているのだろう。
ガリっ
「――っ!」
私は彼の唇をおもいっきり噛んだ。彼は口付けをやめ一瞬苦痛の表情をしたが、すぐに血の出た唇をペロリと舐めた。
「ミシェルはなかなか情熱的だね」
ふふふと笑った後に、でも君から与えられた痛みならむしろ嬉しいよと恐ろしいことを言っている。
「せめてもの情けだ。君から彼にお別れしておいで。一週間後、僕の帰国に合わせてミシェルもアルシャ帝国へ連れて帰るからそのつもりでいてね」
私がこの提案を受け入れないという選択肢はない――でも私、デーヴィド様と本当に離れられるの?でも離れないと彼の命はない。
「愛しているよ、ではまたね」
それだけ言って帝国王は部屋を出て行った。その瞬間にユリアが泣きながら私に駆け寄ってくる。
「お、お嬢様っ。すみません、私が付いておきながらお守りできず……うっうっ。側近の方に腕を掴まれ近付くなと脅されて」
彼女は嗚咽をもらしながら、謝っている。ユリアが悪い事など一つもない。むしろ、こんな場面を見せて申し訳ない気持ちだ。
「貴方のせいじゃないわ。口をゆすぎたい……ユリア、このことは他言無用よ」
「でも、お嬢様……」
「デーヴィド様に知られたくないの!お願い」
「わかりました」
そうして、私達は王宮をあとにした。自宅に着くと、デーヴィド様が玄関に走ってきてくれた。ずっと待っていてくださったそうで、私が戻るまで忙しなくウロウロされていたらしい。
彼は「戻ってきてくれて安心した」と私を抱きしめてくれた。その腕の中で私は、先程の帝国王との話を思い出し泣きそうになってしまった。
「少し二人で話をさせて欲しいのです」
両親にそう告げ、私はデーヴィド様と自室に二人きりになる。
「やはり、あいつに何か言われたんだろう?でも、私が命に代えても君を守るから心配しないでくれ」
デーヴィド様は私に必死にそう言ってくれる。優しい人だ……私は貴方を愛している。
私は背伸びして彼に口付けをする。私からの急な口付けに彼は驚き頬を染めた。私はあの人のキスを上書きして欲しくてもう一度口付ける。その後、デーヴィド様から何度も濃厚なキスが繰り返された。
「……ミシェル、君から口付けなんて。やはり何か不安なことがあったのだね」
「……積極的な私はお嫌いですか?」
「普段なら大歓迎だが……今は心配になる」
彼は弱々しい声でそう言い、私をまたギュッと強く抱きしめた。




