54 治癒士が欲しいだけ?
「ミシェル、すまない。やはり一人にするべきじゃなかった」
デーヴィド様は泣いて震える私をギュッと抱きしめた。その後、その騒ぎを聞いた私の両親とお兄様も駆けつけてくれた。しかし、ここでは目立つと言うことで、そのまま家に戻ることになった。
「ミシェル、何があったか話してくれ」
お父様が話を切り出した。今は自宅の客間にみんな揃っている。デーヴィド様は私の隣に座り、安心させるようにずっと手を握ってくれている。
「私……実はアルシャ帝国王の傷を治したことがあるのです。もちろん王とは知らずにですが」
その発言に皆が驚きの声をあげる。
「ミシェル、本当か?隣国の王と君が会う機会があるとは思えないのだが……」
デーヴィド様が困惑の表情になる。それはそうだ……普通はただの伯爵令嬢が大国の王に会う機会などあるわけがない。
「戦場で、傷だらけでボロボロの服を着た男性を助けたのです。異国の方だと気が付き勝手に治療してはいけないと思ったのですが、私の独断で治癒魔法をかけました。放置していれば……亡くなられていたでしょう。その後、意識が戻ったので名前を告げずにその場を離れました」
「それが……アルシャ帝国王だったと?」
「そのようです」
「なぜ我が国に王が?しかも傷を負っていたということは、何かに追われ逃げていたということなのか」
「数ヶ月前にアルシャ帝国は先帝が急逝され、世継ぎ争いが激しく内戦が酷かったそうだ。あの国は長子相続ではなく、実力主義だからな。現国王は十八歳で、つい最近即位したと聞いている……」
父がアルシャ帝国の情報を教えてくれた。
「私がいなければ、即位できなかったと仰っていました」
それを聞き、みんなは黙り込んでしまった。
「私と婚姻と言われるなど……きっと治癒士としての能力を帝国に持ち帰りたいのでしょう」
「明日、陛下と話に行く。どんな理由であれミシェルを他国に嫁がせるなどありえない」
父が強い口調でそう告げる。
「ヴィクトリア様も……この件一枚噛んでいます。私をわざとダンスに誘い、その間にアルシャ帝国王をミシェルに向かわせた。彼女は留学先で王と知り合いになられていて、今回無理矢理生誕祭の招待をねじ込んだようなのです」
デーヴィド様はグッと拳に力を込めて、わなわなと震えている。
「それに、彼の態度も気になります。本当に治癒士の力を欲しているだけなのでしょうか?彼は……ミシェルを一生愛したいと言っていた」
その言葉にみんなが黙り込む。だが、あんな短時間で私を好きになる理由がないのでそれは有り得ないと思う。
「ミシェルは治癒魔法をかけるだけで好かれることが多い。怪我を治した後に君が無意識に微笑むから、意識が朦朧した状態で見ると天使に見えるとよく隊員達が言ってるから」
お兄様はそんなことを言い出す……確かにあの人私を天使と呼んでいたかも。
「色々と不安はあるが、ミシェルは一人で過ごさないようにしなさい。騎士団内ではデーヴィドかルーカスが必ず一緒にいろ」
「はい」「わかりました」
やっとデーヴィド様と両想いになり、幸せだったのに胸騒ぎがする。




