53 再会②
「これは、大変失礼致しました。私はこの国の伯爵家が娘、ミシェル・ド・ロレーヌでございます」
私は最敬礼のカーテシーをする。
「よい、そんなに畏まらないでくれ。ミシェルか……良いな。本当に天使の名ではないか」
「あの、私達どこかでお会いしていますか?」
「あはは、まだ気付かないんだね。確かにあの時はボロボロだったから……ね、これに見覚えない?」
彼は耳に付けているピアスをちょんと揺らす。
私はそれをじっくりと眺めた……
サファイアのピアス!これは私の!
「貴方はあの時の!」
「そうだよ。君にずっとお礼がしたかった」
私は戸惑いが隠せなかったが、確かによく見るとプラチナブロンドの髪に琥珀色の瞳……あの時移民だと勘違いした男の人そのものだった。
「お礼など必要ございません。ご無事で何よりでございました」
私はそのまま礼をして立ち去ろうとしたが、それを阻まれる。
「僕は君に惚れたんだ。我が妃になって欲しい」
真剣な顔で、私の左手を持ち上げキスを落とした。私達の会話に気が付いた周囲がザワザワしている。――デーヴィド様もいないし、これは不味い。
「お……お戯れはおやめくださいませ」
私は手をサッと離し、血の気が引くのを感じた。そう……この人は私が治癒士だと知っている。婚姻とは形ばかりで、アルシャ帝国に私の能力を持って帰りたいのだろう。
陛下の言いつけを守らずに、他国民を勝手に助けたことを一瞬悔やんだが……でもあの時放置はどうしてもできなかった。助けたのは間違っていない。
「戯れなどではない。ミシェルがいなければ、私は死んでいて王に即位できなかった。命の恩人の君を一生傍において愛したい。欲しいものは何でも用意させよう」
彼の目は嘘をついているようには見えないし、冗談に聞こえない言葉の重みがある。どうしたらこの場面を切り抜けられる……?その時後ろから大きな声が聞こえてきた。
「失礼致します。アルシャ帝国王様、私の婚約者に何かご用でございますでしょうか」
はぁっはぁっ、と息を切らしたデーヴィド様が駆けつけ頭を下げお辞儀をし間に入ってくれる。
きっとヴィクトリア様と踊り終えて、王と話している私に気が付いてすぐにここに来てくれたんだろう。
「君は誰?僕はミシェルと話しているんだけど」
顔は微笑んでいるのに、とても冷たい声なのがアンバラスで恐怖を感じる。
「私は、我が国の公爵家長男デーヴィッド・フォン・メクレンブルグと申します。現在第一騎士団長を務めており、ミシェルの婚約者でございます」
それを聞き、アルシャ帝国王は顔を歪める。
「ほお、あの英雄か。アルシャ帝国でもそなたの活躍は噂で聞いている。なるほど……婚約者か」
「はい……ご理解いただきたく存じます」
彼は頭を下げてお願いしている。
「そうか……簡単なことではないか。君をこの世から消せば、彼女の婚約者はいないということだろ?」
アルシャ帝国王はデーヴィド様にニッコリと笑ってそう言った。
「もう……や、やめて下さい」
私は声が震えて涙がポロポロ出てきた。
「ああ、すまない。僕の可愛い天使を泣かせてしまった。こんなこと優しいミシェルの前で言うことじゃなかったね。今日はもう引くよ」
私の髪をひとすくいしキスを落とす。
去っていく時、彼は一度だけ振り向いてこう告げた。
「でも、覚えておいて。アルシャ帝国の男は皆、欲しいものは命懸けで取りに行くってね」




