49 不安
ゆっくりと顔が離れる。私は全身真っ赤に染まり、息も絶え絶えで力がくったりと抜けてしまった。
「ごめん。嬉しくて抑えが効かなくなった。でも君が可愛いからしょうがない」
彼は照れながらも少し気まずそうに目線を逸らし、唇を手で隠している。
「あの……私慣れてないのでゆっくり進めていただだけると有難い……です」
「そうだよな……ごめん、歳上の私が考えるべきことだった。うん……なるべくゆっくりする」
彼は我慢するような苦し気な顔でそう言った。
「あと、私が不安に思っていることも正直にお伝えしてもいいですか?」
「ああ、もちろん。なんでも言ってくれ、ミシェルの不安は取り除きたい」
彼はそっと私の手を握ってくれた。
「私、将来公爵家夫人としてちゃんと出来るのか不安なのです。働いているので、社交もほかの御令嬢ほど出来ないし……まず夜まで家にいないとなると女主人としても役に立たないです」
「父は元気だから、爵位を継ぐのはまだ先だししばらくは結婚してもこのままだ。私も徐々に引き継ぐつもりではあるが……」
「それに当家は代々騎士家系だから主人が不在のことが多い。それでも大丈夫なように、とても信頼できる優秀な家令と女中頭がいるから助けてくれる。家のことは私も積極的に関わるし心配することはない」
「それで……私を妻と認めていただけるでしょうか?」
「もちろんだ。うちの使用人達は私がミシェルに長い片想いをしてると知っているから、きっと喜ぶ」
私はそれを聞いて真っ赤になった。なぜみんなにそんなことが知られているのだろうか。
「社交は……今よりは増えると思うので君の負担になってすまない。母について教わってくれると嬉しいのだが」
「それはもちろんです」
「あと、君が治癒士として生きていきたいのは知ってる。だが……これからは私が同行できない戦場には行かないで欲しい」
「どうして?」
「これは私の我儘だ。ただ心配だから」
私の手をさらにギュッと握る。
「わかりました。少しお兄様と相談してみます」
彼はありがとう、とても嬉しそうに微笑んだ。
「あの、ヴィクトリア様のことはよろしいのですか?この前、お二人でお食事をしていらっしゃるところをお見かけしてしまって」
私は最も気になっていたことを勇気を出して聞くことにした。彼は目を見開き驚いている。
「見たとは……あのレストランに君もいたのか?」
「ええ」
彼は眉間に皺を寄せ何かを考えている。
「君はあのレストランを事前に予約していた?」
「親友のアンヌと婚約者が行くはずだったのですが、急な仕事でキャンセルされたそうで私が呼ばれました」
「アンヌ嬢の婚約者は……確か宰相の息子だったよな」
「はい、ディラン様ですわ」
「なるほどな……あの女わざと」
彼は苛ついたようにチッと舌打ちをする。私には何がなんだかよくわからない。
「王命ということで一度見合いはしたが、それだけだ。ミシェルと私が同じ気持ちだとわかった以上、私の妻は君以外ありえない。それにもともと、君と結婚できなくても……独身を通そうと思っていた。ヴィクトリア様には正式にお断りする」




