6 いつも美味しい
「はぁ……やっぱり行かないとだめだよね」
私はため息をつき、意を決して扉をノックした。
トントントン
「お昼をお待ちしました」
「入ってくれ」
私はみんなの給仕をひと通り終えて、団長の部屋に来ている。彼は忙しいため、昼は執務室で一人で食べることが多い。その食事を運ぶのは常に私の役目だったが、あんなことがあったので今日は行くのがものすごく嫌だった。
「どうぞ」
「ありがとう。ミシェルの料理はいつも美味いから嬉しいよ」
――この人から今まで料理を美味しいと言ってもらったことがない。
私が料理担当になると報告した時も「君に負担ではないか?」と体の心配をされただけで「料理上手な君が担当になってくれて嬉しい」などとは言われなかった。食べ物に興味ないのかと思っていた。
「団長、美味しいと思っていたんですね」
「ああ、どの料理よりもミシェルの作るご飯が一番美味しい。毎日昼を楽しみにしている」
急に褒められてまた恥ずかしくて頬が染まる。でもこの人のペースに流されてはいけない。朝のこともきっちり文句を言う言わないと!
「あ、朝の。何ですかあれ。みんなに誤解を与える言い方はやめてください。それに名前の呼び捨ても……」
「誤解?事実しか言っていないが」
「だって……団長が私を……口説いているとか」
「その通りだろ?求婚したが、まだ君に振り向いてもらえてないから俺が口説いている……何か間違いがあるかい?」
「私は、お……お断りしました」
「そうだね、すぐ婚約というのは断られた。だが、私は諦めが悪くてね。お父上に相談して、時間を貰ってミシェルを本気で口説くことにした」
「え?」
「二人っきりの時は私をデーヴィドと呼んでくれ」
「は?」
「今までは、ずっと我慢してたけどこれからは遠慮しないから覚悟してね、ミシェル」
私の髪を掬いとり愛し気にキスをする。我慢とはいったい何を我慢していたのか?
「明日からはここでお昼を一緒に食べよう。次回は君の分も持っておいで」
「嫌です」
「私のことが嫌いかい?」
団長は捨てられた子犬のように哀しい顔をした。今までの硬派でクールな団長はどこへ行ったのか……
「嫌いではありませんが」
「じゃあいいね。私は忙しくてお昼くらいしか君との仲を深められる時間が取れないからさ。明日からよろしく」
彼は拒否は認めないというようにニッコリと圧のある微笑みを私に向けた。