47 昔話②
「次に会ったのは、ミシェルが十五歳の時かな。ルーカスに差し入れを持って来ていた君に偶然会った」
「私はその時まだ副団長で、君は兄の上官である私にも挨拶をしてくれた。初めましてと笑顔で言われて……これは全然覚えられていないなと気が付いたんだ」
「失礼ですね。す、すみません」
私は自分の記憶力の乏しさに恥ずかしくなり俯いた。少しだけショックだったとデーヴィド様が笑う。
「いや、子どもの頃のことなど誰も覚えていまい。それに……君は無意識に色んな人を救ってそうだからあの時のことは、特に珍しいことではなかったんだろう」
彼は何故か少し寂しそうな顔をした。
「覚えられていないなら、今は話さない方がいいと判断した。でも……困ったことにその時の君に私は一目惚れしたんだ」
「えっ」
「ルーカスに笑いかけている君はとても眩しくて可愛いかったし、真剣な顔の君は美しかった。騎士団の隊員達にも分け隔てなく優しく接しているのを見て……胸が高鳴った」
あまりに褒められて顔から火が出そうだ。
「でも、君は十五歳の少女で、私は二十五歳の大人。自分でも君に女性として好意を抱くことが信じられなかったし、そんな感情を持つ私は汚れていると思って気持ちを封じ込めようとした。今まで付き合った女性はみんな近い年齢の女性ばかりだったし、気の迷いかなと思った」
「言いにくいが……私は女性に不自由したことはなかった。ただ公爵家の長男として最終的には政略結婚になるだろうからと誰にも執着せず、それなりの関係を続けていた。それに、他の女性と付き合っていれば、君のことを気にしなくて済むと思ったから」
私は歴代の美しい彼女達を思い出して胸が痛くなった。
「そして、一昨年ミシェルが社交界デビューするのを知り舞踏会へ足を運んだ。行かなければいいのに……自分でも諦めが悪くて嫌になるよ」
「そこにいたのは、純白のドレスを美しく着こなしてルーカスと優雅に踊る君の姿だった。私が助けてもらった時の天使が大人になってそこにいて目が離せなかった」
「見られていたの恥ずかしいです。あの時はパートナーもいなくてお兄様に頼んだので」
彼はその言葉に嬉しそうに微笑んだ。
「私は安心した。まだ君に婚約者がいないのだとわかったから」
「どうせ私はデーヴィド様とは違ってもてませんからね。あの時、その後も私に声をかけてくれる男性なんていなかったですから」
私は拗ねたようにそう言った。
「君は何も分かっていない。沢山の男が君に声をかけようとしていたが、父上とルーカスが変な男を近付けまいと牽制していた。その牽制に負けずに声を掛ける気概のある男がいなかっただけだよ」
「じゃあ、その時デーヴィド様がお声を掛けてくださったら良かったのに」
「声は掛けられなかった。私には当時恋人がいたからね……恋人がいるのに君に心を奪われて本当に最低な男だった」
「それからすぐ、彼女と別れた。君に近付こうとしたが学生の君と接点もないし、舞踏会もミシェルは最低限しか来なかっただろう?それにやはり年齢差がいつまでも気になった」
「何度も諦めようとしたが――無理だった。父上やルーカスに会いに来た君を、遠くから眺めるだけの日々が続いたよ」




