44 お別れ②
「想像してたより、辛いな……失恋って」
「私を好きになっていただいて、ありがとうございました。嬉し……かった」
「ありがとうは俺の台詞。君に人生変えてもらって……感謝しきれないよ」
ポンポンと頭を撫でられる。
「最後だから……少しだけごめんね」
ヘンリーさんは私をギュッと強く抱きしめた。
「ミシェル、俺の全てをかけて愛してたよ。俺を暗い世界から救いあげてくれてありがとう」
「ひっく……ひっく……ごめんな……さ」
「泣かないで。俺は常に笑ってるミシェルちゃんを見たい。君と恋人になれなくても、俺の恩人であることは変わらないし大事な人だよ」
彼はそっと体を離した。私は涙を拭き、にっこりと笑った。
「ありがとうございます」
ヘンリーさんはそれを見てふっと笑った後……切ないような、哀しいような顔をした。
その瞬間、いきなりぐっと彼の顔が近付いた。
ちゅっ
一瞬、なんか柔らかいものが……唇と唇が触れ合った――?私は何が起きたのか分からず、そのまま目を見開き固まっていた。
すると今度は顔を手で覆われて、くちゅっと唇を食むように激しく口付けられた。
私は意識が戻り、ドンと強く胸を押すとすぐに体が離れた。私は真っ赤になりながら口を手で押さえる……
「ごめん、一度だけのつもりだったんだけど」
「は……初めて……だったのに」
私は口をゴシゴシと擦りながら涙目になる。
「え!初めて?団長としてねぇの??」
ヘンリーさんは私より驚いた顔をして、オロオロと焦っている。
「し、してないです」
「ごめん。もう経験済みかと思ってたんだ……でもかなり自分勝手だけど、君の初めてのキスが俺で嬉しいかも。俺が真剣に愛した証を残せたみたいで」
私はヘンリーさんに「酷いっ!この遊び人っ!あんないやらしいキス……馬鹿っ!!」と真っ赤なままキッと彼を睨みつけポカポカと殴る。
「じゃあ、責任とるから俺と結婚して」
「……それは嫌です」
あはははは、俺はいくらでもキスの責任取るからいつでも言ってと笑い出した。バレたら俺きっと団長に殺されると青ざめていたが、でも今後はあの人がミシェルちゃん独占するんだし、許してもらおーっと、と軽い調子で話している。
「そういや隊長試験受かったらさ……親父が良くやったって直接お祝い言いにきてさ」
「え?お父様から?」
「俺のこととか興味ないと思ってたのに、みててくれてるみたい。あと……母親のことも蔑ろにしてたんだと思ってたんだけど、実は本気で愛してたっぽくてさ。俺の顔が母さんに似すぎてて、見ると死んだこと思い出して辛くて避けてたんだと。本当に馬鹿みてぇな女々しい親父だよな」
「そうだったんですね、でもよかったです」
「ああ、ミシェルちゃんが試験勧めてくれなかったら、一生話すことなかったと思う」
その嬉しい報告を聞き、そろそろ帰ろうとアポロで家まで送ってもらった。
「じゃあ……こらからは俺とミシェルちゃんはただの先輩後輩ね」
「はい」
「ミシェルちゃんの幸せを心から願ってる」
「私もヘンリーさんの幸せを……願っています」
彼はそれを聞き、とても綺麗に微笑んだ。
「もう一回だけ言わせて……すごく愛してた」
ギュッと抱きしめられ、すぐに体を離された。私はアポロからゆっくり降りる。
「ミシェルちゃん……絶対こっちを振り向かずに帰って」
「ヘンリーさん、ありがとう。さようなら」
彼の震える声を聞き、私は振り向かず、パタパタ足早に家に入った。
「ああ、人を真剣に好きになるって辛いな」




