43 お別れ①
レストランでデーヴィド様と一緒にいらっしゃった女性は、王弟の末娘であるヴィクトリア様だとアンヌが教えてくれた。彼女は社交も積極的にこなし、とても顔が広いので色んなことを知っている。
ヴィクトリア様は私の二つ年上の二十歳だそうだ。歳の近い友好国の王子がいらっしゃらなかったため、婚約者が決まらず本人の希望で長期留学されていたそうだ。
美しい黒髪はウェーブがかかっており、大きな目と長いまつ毛、背は小さいのに優雅で可愛らしい魅力的な女性だった。とても二人はお似合いに見えた。
でも、振られてもいいから……自分の気持ちを伝えよう。
私はデーヴィド様に『週末、貴方の一日を私にいただけませんか?最後にお話したいことがあります』と手紙を書いた。返事がくるかはわからないが。
デーヴィド様にお会いする前に、ヘンリーさんにちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
「ヘンリーさん、今日訓練が終わったら……お話したいことがあります」
その言葉を聞いて、彼は困ったような顔をした。
「ミシェルちゃんからの呼び出しとか、普段ならめちゃくちゃ嬉しいんだけど……なんか良い話じゃなさそうだよね」
私は何と言っていいのか、無言になってしまう。
「わかった。そんな顔しないで!笑って!終わったら門で待ってる」
ふっと笑顔になり頭をゴシゴシと撫でてくれる。
♢♢♢
訓練後、約束通りヘンリーさんは門で待っていた。何故か馬と一緒に立っている。
「あの……」
「これ俺の愛馬のアポロ、可愛いでしょ?でも俺以外には気性が荒いから気をつけて」
実は私は馬にも乗れるので、慣れている。アポロに近付き「初めまして」とよしよしと撫でたら、気持ちよさそうにしている。
「アポロも君を好きみたいで良かった。これで振り落とされることはない。俺、君に見せたいものがあるんだ。一緒に行こう」
そう言って、アポロに二人で乗って駆けていく。風を切って走るのは気持ちがいい。
連れてきてもらったそこは、とても美しい一面の花畑だった。
「綺麗……」
「でしょ?ミシェルちゃん元気なかったから、連れてきたかったんだ」
彼は元気付けようとしてくれたのか……相変わらずとても優しい。
木陰に座ろうと言われ、アポロを木に括り近くに二人で座った。
「さあ、ここには誰もいないよ。なんでも話して」
彼は明るい声でそう言った。
「私……デーヴィド様が好きです。だから、ヘンリーさんのお気持ちには応えられません」
彼は真剣な顔でじっと私を見つめている。
「……団長、別の女と見合いしてるの知ってる?」
「知っています」
「俺じゃだめなの?団長は家のために公爵家夫人に相応しい人を探す義務がある。その点俺は三男だし一緒になっても、君はなんのしがらみもなく自由だよ?」
「だめ……なんです。彼が他の女性と一緒にいると思うだけで、胸が苦しいんです」
私ははっきりとそう言った。
「じゃあ、逆に俺が他の女の子といても胸が苦しくないってこと?」
「……はい」
「はは……そっか。それは……俺に脈はないね。だって君を好きな俺は、君が団長と話しているだけで胸が張り裂けそうに痛くて、苦しいんだから」
ヘンリーさんは辛そうな顔で無理矢理笑っていた。




