42 親友とご飯
私は今、学生時代の親友アンヌと久しぶりに会っていた。彼女は同じ伯爵令嬢であり、治癒士である私を特別視せず普通に接してくれる珍しい存在だ。
「手紙は貰っていたけど、久々に会ったら貴方がそんなことになってたなんて、驚きだわ」
「ごめん……私が仕事しだしてから予定が合わなくて会えなかったものね」
「シェルのせいじゃないわ。私も花嫁修行みっちりさせられて身動き取れなかったし」
彼女はさも嫌そうに顔を歪めながらそう言った。アンヌは五歳年上のディランという現宰相の息子と婚約中である。彼は宰相の補佐の仕事をしておりとても忙しい。
「あいつ、私がこのレストランの予約ずっと楽しみにしてたのに、仕事が入ったからキャンセルだとあっさり言ったのよ」
アンヌは怒りがおさまらず、苛々している。そう、美味しいと有名で予約がなかなか取れないレストランを彼にドタキャンされた埋め合わせに私が呼ばれたのだ。
「おまけに、私が文句を言ったらムスッとした表情で『仕事だから仕方がないだろう。我儘を言うな』ですって!冷徹男!」
彼は口下手でなかなかアンヌに素直な気持ちを伝えられないのである。彼が本当は彼女を愛していることを私は知っている。実はディランはお兄様の学生時代の友人だから話が入ってくるのだ。
私は彼が他の縁談がたくさんあったのに、アンヌを選んだのを知っている。
「言い方が悪いわよね。でも、このレストラン私と来ちゃってよかったの?」
「いいの!あんな愛のない男のことは今日は忘れるわ。ほら、これ美味しいから食べて」
「本当だ!美味しい」
でしょ?とアンヌはご機嫌に食べている。
「そんなことより、シェルの話よ。デーヴィド様とヘンリー様とどっちのデートが楽しかったの?」
「どっちも楽しかった」
「まあ、そうよね。どっちも良い男だもの。楽しいに決まってるわ」
私のどっちつかずの返事を批判せず、あははと笑いながら肯定してくれて安心する。
「じゃあ、デーヴィド様が目の前で他の女とキスしてても平気でいられる?」
そう言われて、もし彼が昔の彼女のジュリア様とキスしてたらと想像すると不愉快な気持ちになった。私を好きだと言ってくださっていたのに……私はつい嫌な顔をしてしまった。
「ふふっ……かなり嫌そうね。やっぱり好きなんじゃないの」
「じゃあ、ヘンリー様がキスしてたら?」
以前の彼が御令嬢達と一緒にイチャイチャしていたところは今まで何度も目撃している。他の女性とキスしていたら……少し寂しい気もするが、彼に本当に好きな女性ができたのであれば嬉しいことだ。幸せなって欲しいと思う。私は彼が好きだが、きっと親しい素敵なお兄さんのような感じなのかもしれない。
「その反応……決まったじゃない!デーヴィド様に貴方が不安なこととか、悩んでいることも含めてちゃんと話した方がいいわ。それに……愛してることも」
「でも、彼にはもう縁談が進んでて」
「だからよ!早くしないと取り返しがつかなくなるわ。貴方が気持ちを伝えて……それでもシェルを選んでくれるのか、家のことを考えて別の女性を選ばれるのかはデーヴィド様のご判断よ」
「そうね……私は彼にもらってばっかりなのに、私は何も伝えてないもの」
「振られたら慰めてあげるから」
そう言ってニヤリと笑っている。私は良い友達を持った。私は、気持ちをきちんと伝えようと心に決めた。
そんな時、アンヌが一階のテラス席を見て目を見開き驚いている。
「あれ……デーヴィド様じゃなくて?」
私は下を覗き込むと……そこにはデーヴィド様と美しい御令嬢が二人でお食事をされていた。




