【デーヴィド視点】身を引くのも愛
俺は父上に呼びだされ、久しぶりに寮を離れ本家へ帰宅していた。
「デーヴィド、いい加減もう覚悟を決めろ」
「父上、私は昔から申し上げていたはずです。結婚するのであればミシェル以外あり得ないと」
「お前の気持ちはわかるが、王家からの縁談だ。臣下である私たちが断れるとでも?」
俺は拳に力を込めて唇を噛み締める。
「ミシェル嬢は……お前と結婚して本当に幸せなのか?」
俺は無言になる……そんなこと言われなくてもわかってる。だが、考えないようにしてきた。
彼女が公爵家夫人を望んでいないことは知っている。だいぶ年上の俺よりもっと年齢も近い男の方が彼女が気を遣わないことも。
俺のことを……別に好きじゃないことも。
「彼女でないと――私が幸せになれません」
俺は苦し気に声を絞り出した。
「身を引くのも愛だ。彼女の幸せを一番に考えてやれ」
「失礼します」
俺は感情的になり、バンっと扉を強く閉めた。
♢♢♢
その翌日からは……最悪だった。
週末にミシェルとヘンリーがデートしていたという噂を耳にする。仲良く手を繋いで、クレープ屋に楽しく話しながら並んでいたそうだ。そんな聞きたくもない噂は隊員達からすぐに俺までまわってくる。
しかも朝から二人で仲良く話してる場面に出くわしそのあまりの親密さに苛つき、哀しくなった。ヘンリーはなぜそんなに彼女と距離が近いのか。
「あいつの前での君は、私といる時とは雰囲気が全然違うんだな……」
ついそんな嫌味なことを言い、彼女に謝罪をさせてしまった。そんなことさせたいわけじゃないのに。
それからの俺はもうだめだった。彼女とヘンリーを目で追い、仲良さそうな場面を見て凹み傷つきどろどろした嫉妬にまみれる。
聞く気じゃなかったのにヘンリーとの関係を聞いた。付き合っていないと言われ嬉しかったのに、その後は俺の縁談をチラつかせわざと彼女の反応を確認する。観劇の時に妬いてくれたように、また俺の方に意識を向けてくれるのでは?と期待した。
本当に卑怯だ……彼女を試すような卑怯な俺だから好かれないんだ。
「公爵家の御令息として選ぶべき伴侶は私でないことは……お分かりでしょう?」
彼女の声が頭の中をぐるぐると回る。
ああ、彼女はやっぱり俺のこと好きじゃないんだなとわかってしまった。嫌いでないが、好きでもないのだろう。
『身を引くのも愛だ』
父上の言葉が頭の中に響く。
もう、終わりにしよう。このどろどろとした重たくて長い片想いから彼女を解放してあげなければ。
でも本当に俺にそれができるのか?せめて、諦められるように彼女に直接嫌いと言ってくれと頼んだが……言ってくれなかった。わかっている、優しい彼女にその言葉を強いるのは俺が酷いのだ。
「君は……ずるい。公爵家など、どうでもいいほど、私は君を愛している。君が私自身をどう思うのかが聞きたかったのに」
それなのに、俺は彼女を責めるようなことを口にしてしまった。彼女は俺が望むから、仕方なく毎日昼にここに来てくれていたと言うのに。
彼女を泣かせてしまった。それなのに、泣き顔まで綺麗だなと思った俺はまだ彼女のことが大好きなようだ。
「どうしたら……諦められるのか」
俺は執務室のソファーに寝転がり、目を両手で隠した。




