41 嫌いと言ってくれ
「ミシェルちゃーん!受かった」
ヘンリーさんは私に向かって駆けてきて、ハイタッチのポーズをとったまま、待っている。
その姿があまりにも子どもっぽくて笑ってしまう。
パチン
私は彼の大きな手に自分の手を勢いよく重ねた。
「さすが!おめでとうございます!」
私は満面の笑みで祝福する。
「ミシェルちゃんのおかげ」
「何言ってるんですか、私はなにもしてません」
「ご褒美くれない?俺にキス……」
ぐえっ
「ほお、お前は推薦状をわざわざ書いた上司の俺に一番に報告する義務があるんじゃあねぇのか?この恩知らずが」
ヘンリーさんがデーヴィド様にギリギリと首を締め上げられて苦しそうだ。そして締め上げられたまま、執務室に連れて行かれた。
ヘンリーさんは本当にあっさりと隊長試験に受かった。彼は今までやる気がなかっただけで、本当はすごい人だったみたいだ。
♢♢♢
私は相変わらず、デーヴィド様とお昼を食べていた。もう最近は日常のルーティーンになっている。
「ずっと、聞きたかったことがあるんだが」
デーヴィド様は真剣な顔で質問をしてくる。
「なんですか?」
「君と、ヘンリーとはどういう関係だ?」
私と彼の関係をなんと言えばいいのか。
「もしかして付き合って……」
「付き合っていません」
その言葉に怖い顔だったデーヴィド様はほっとため息をついた。
「噂で君が彼とデートしてたと聞いて……嫉妬した」
「クレープを食べに行ったのです」
「そこに行くのは私じゃだめなのか?ミシェルが行きたい場所なら私も一緒にどこでも行きたい」
「混んでるお店だから、デーヴィド様を並ばせるなんてできないです」
その言葉を聞いて彼はムッと不機嫌になった。
「じゃあヘンリーならいいのか?あいつなら私には頼めないことも何でも頼める?私も君と一緒なら何時間並んだって苦じゃ無いのに!」
私は大声に驚いてしまった。彼はすぐに我に返ったのか、顔を片手で隠して目をつぶっている。
「すまない、取り乱した」
私は動揺し、そっと目線を逸らしてしまう。
「――だめだな。君が他の男といるのが嫌なんだ。それだけで胸が苦しくて、耐えられない」
デーヴィド様は辛そうにグッと左胸を掴んでいる。
「実は……私に王家から縁談が来てる。今は拒否しているが、婚約者がいない私がずっと断り続けるのは難しいかもしれない」
「王家から……それは……メクレンブルグ公爵家からするととても良いお話ですよね」
「……家にとってはな」
「それであれば、公爵家の御令息として選ぶべき伴侶は私でないことは……お分かりでしょう?」
私はその縁談を聞いて胸が痛くなる。でも、王家との繋がりはとても大切……私なんかよりよっぽどデーヴィド様の後ろ盾になってくださるはず。
「……つまり、君は私が好きではないということだね」
デーヴィド様はとても傷ついた顔をされた、顔を伏せられた。
「違いますっ!そうでは……」
「直接……嫌いだと言ってくれないか?そう言ってくれたら、私は君を諦める」
デーヴィド様が私を真っ直ぐ見つめる。
「そんなこと……言えません」
私は声が震えて涙が目に溜まる。
そんなこと――嘘でも言えない。
「君は……ずるい。公爵家など、どうでもいいほど、私は君を愛している。君が私自身をどう思うのかが聞きたかったのに」
執務室に二人の沈黙が続く。
「すまない……もう、明日から来ないでくれ」
私は泣きながら執務室を出て行った。




