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37 ハッピーバースデー

 クレープを食べ、大満足な気持ちで店を出た。


「ごちそうさまでした。出していただいてばかりですみません」


「なに言ってるの。俺が食べたくて付き合わせたのに払うの当たり前でしょ」


 そう彼は「付き合わせた」と言ってくれるが……きっと、私が行きたいだろうと思って連れて来てくれたのだとさっき気が付いた。

 彼はクレープを食べてはいたが、特別甘い物が好きには見えなかったから。


「まだもう少し時間あるかな?夕日見に行こうよ」


 私達は海辺まで移動した。彼は少し高くなった石の塀にぴょんと飛び上がり「気をつけて」と上から私を引っ張り上げた。


「うわぁ、海と空が綺麗ですね」


 ザーッと寄せては返す波の音が耳に響く


「うん……綺麗だ」


 彼は私の方を見ながらそう言っている。


「ちゃんと景色見てください」


「景色は一人でも見れるけど、綺麗な君は今しか見られないからね」


 この人は……なんでこんな恥ずかしいことがさらさらと言えるのだろうか。私はまた頬に熱が集まる。


 彼は私を見つめたまま何も話さなくなった

 ザーッ ザーッ

 波の音だけがずっと聞こえている


 私は、その沈黙と彼の熱っぽい視線に耐えかねて声を発する。


「あ、あの今日はヘンリーさんのお誕生日とお聞きしたのですが合っていますか?」


 彼は言っていないのに自分の誕生日を知っていた私にとても驚いた。お兄様に聞いたと説明し、ユリアに声をかけリボンのかかった袋を持って来てもらう。


「お誕生日おめでとうございます。これ、プレゼントです」


「……俺に?開けていい?」


 彼はそっとリボンを解いて中を除いている。


 私は色々と悩んだが、黒の革を細く編み込み真ん中に馬蹄のモチーフをつけたシンプルなブレスレットを作った。


「これって、もしかして手作り?」


「そうです。買ったのには負けますけど、新たな人生を歩んでるヘンリーさんに幸福が訪れるように祈りを込めて作りました。お守りです」


「ミシェルちゃん、お願い……つけてくれない?」


 手首を出しながら甘えたようにお願いされ、私は彼にブレスレットを付けた。


 その瞬間ガバッとヘンリーさんに抱き締められた。離して貰おうともがくがびくともしない。


「嬉しい……。ありがとう、ずっとつけるよ」


 なんだか彼の声が震えているように聞こえて、少し心配になり私は腕の中で大人しくなった。


「誕生日なんて祝ってもらうの母さん死んで以来はじめてだ」


「えっ……」


「毎年自分の誕生日がくる度に、俺なんていらないのになんで生まれてきたんだろう?って思ってた」


 私はその話を聞いて胸が苦しくなる。


「今日は今までで一番幸せな誕生日だよ、本当にありがとね」


「ヘンリーさんは……ひっく……いらなくなんて……ひっく……ないっ」


 私の目からはボロボロと涙が溢れていた。


「ありがとう、俺の代わりに泣いてくれて。君がそう言ってくれるから、自分に自信もてるようになった」


 彼はゆっくりと体を離し、私の濡れた頬に軽くキスをおとす。


「愛してる」


「私……ヘンリーさんのこと」


 彼は人差し指を私の唇に当てて、首を横に振った。


「まだ言わないで。今はこうして君の近くにいれるだけでいいんだ」


 そう言われて、私は口をつぐんだ。


 オレンジの夕日が沈むまで美しい空と海を二人で無言で眺めていた。

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