36 クレープ
「そろそろクレープ並びに行こっか。時間かかるかもだしね」
「はい、あ!ちょっとだけ待っててください」
私は、少し離れた場所にいるユリアに声をかけた。
「お嬢様、リボンお付けになられますか?」
「っ!まだ何も言っていないのに、ユリアには私の気持ちがわかるのね」
当然ですと言われながら、後ろに可愛い方のリボンを付けてもらった。お似合いですと言ってくれたユリアにお礼を言い、元の場所に戻ると壁にもたれながら待っていたヘンリー様の周りは女性だらけになっていた。
「ヘンリー最近全然遊んでくれないのね」
「相変わらず格好良いわ、これから家に来ない?」
様々な声が聞こえてくる。みんな彼に近付き積極的に腕を触っている。そして可愛い女の子ばっかり……
私にヘンリーさんが気が付いた。
「みんな、ごめんね。俺は女遊びはやめたんだ。大事な女を一人だけ愛すると決めたから」
わざと大きな声でそう言い、私の肩を抱いた。
「だから別の人を探してくれる?」
そう言って呆然としている私の肩を抱いたまま、『フェアリー』へ向かった。
「モテるんですね」
「え……俺のこと今までモテない男に見えてたの?」
「いえ、以前からモテるように見えてました」
なにそれ、じゃあイメージそのままじゃんと彼は笑っている。頭では知っていたが、目の当たりにして驚いたのだ。こんなに人気なんだと。
「一人だと女の子群がってくるから、ミシェルちゃん傍にいてね」
「私は虫除けですね」
「どっちかと言うと俺が君の虫除けだけどね」
「私はモテませんから」
彼はその言葉に、相変わらず困ったもんだなと小声で言ったが、私には意味がわからない。
「そんなことよりリボン付けてくれたんだ。やっぱり似合ってるよ、可愛い」
彼はすぐにリボンに気が付いた。さすがだ。
「ありがとうございます」
♢♢♢
お店は混んでおり、一時間程並んだがその時間はあっという間に過ぎた。
彼は話がとても上手で飽きさせない。隊長試験を受けるという報告から話は始まり、遠征先で見た七色に輝く大きな幻の魚のことや、他国から来た美しい踊り子の話などバラエティに富んでいた。
そして今、クレープが目の前に運ばれてきている。私のはゴロゴロした苺のジャムにトロトロのカスタード、バニラアイスがのっている。
「うわぁ、美味しそう。しかも見た目も可愛い」
喜んでいる私を見て、彼もなんだか嬉しそうだ。
いただきます、とぱくっと口に運ぶ。
「んーーっ!幸せっ」
私は美味しさを噛み締める。
「ミシェルちゃんの食べてる姿って最高だよね。ほら、こっちも食べてみて。あーん」
彼は一口に綺麗に切ったクレープをフォークに刺し、私の目の前に差し出してくる。
つい、反射的にパクッと食べる。ヘンリーさんのはチョコレートとバナナ……これはまた違う美味しさだなぁともぐもぐ味わう。
「そっちも美味しいので、当たりですね」
私が笑顔で答える。
っくっくっく、とヘンリーさんが声を押し殺して笑っている。なんかデジャヴ。
「……さっき学んだんじゃないの?俺は間接キス何度でも大歓迎だけど」
私はまた真っ赤になった。ヘンリーさんがあーんとかするからつい……私は絶対に次は引っかからない!と心に誓った。




