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32 気分転換

 私とお父様が言い合いになって数日後、ヘンリーさんは美しかった長髪をバッサリと切って訓練場に現れた。


「どうしたんですか……その髪」


「気分転換だよ。でもみんなに綺麗な髪だったのにもったいないって言われ過ぎて凹んでるんだけど」


「短いのとってもお似合いですよ。私は男性は断然短髪派です。男らしいですもの」


 ヘンリーさんは少し照れたように頬を染めた。


「そう言ってもらえて元気出た、ありがとうね。ミシェルちゃん好みになるなら、早く切ればよかった」


 そう言って、嬉しそうに私の髪をくしゃくしゃにしてくる。


「や、やめて下さい。髪が乱れちゃう」


「ははっ、ごめん。そういえば週末やっとお父上から許可でたからよろしくね。お昼前に迎えに行くから」


「わかりました」


♢♢♢


「ミシェル、聞いた?ヘンリーさんの髪の話」


 怪我人の治療がひと段落して、休憩しているとお兄様がそんなことを聞いてきた。


「気分転換とお聞きしましたけど?」


「違うよ、俺らの父上が原因らしいんだ」


「え?」


 その話はこうだった。お父様は私とヘンリーさんと出掛けるのを渋々認めたけど、軽薄な言動も騎士なのにチャラチャラしてる長髪も気に食わないと言ったそうなのだ。

 それを聞いたヘンリーさんは、過去は変えられないが今後の言動は改めるので見ていてくださいと言ってその場で髪をバッサリ切ってしまわれたそうなのだ。


 お父様の執務室から急に短髪になって現れたヘンリーさんを見てみんなが驚き、何かあったのかと噂になっていたらしい。


「ええっ?完全にお父様のせいじゃない」


「父上はその覚悟に、彼を少し見直したみたい。ヘンリーさんがこんなに男らしいって知らなかったみたいだから」


「私、彼に謝りに行くわ」


「やめとけ!男は秘密にしておきたいことがあるんだよ。でも……やはりお前はこのことを、知っておくべきだと思ったらから伝えた」


 ヘンリーさんと出掛けるせいでこんな大事になってなんだか申し訳ないわ。私のせいでこんなことになっているのが悲しい。


「ミシェルが男性に何かをしてもらった時には、ごめんなさいではなくありがとうと言うんだよ」


「ありがとう……」


「そう、それが男は一番嬉しい」



 あと実はなんとヘンリーさんは週末誕生日らしい。そんなこと一言も言ってなかったのに。御令嬢達が何かをあげたいが、今年は受け取ってくれないのではと嘆いているのをたまたま聞いたとお兄様が伝えてくれた。


 どうせ会うならなんか祝ってあげれば?ただし勘違いされるような意味深な贈り物はするなよと念を押された。あと、経験値が違いすぎるから会っている間は充分気を付けるようにと言われた。


『俺は君が好きだ』


 ヘンリーさんに以前言われた言葉を急に思い出す。あの時はまだ彼女も沢山いらっしゃったし、もしかしたら冗談で言われたのかもとあまり深く考えてなかったけど……彼の気持ちは本当なのだろうか。


 私は一体誰が好きなのか?自分でもよくわからないこの気持ちをそろそろちゃんと整理しなければと思った。

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