29 反省
私はふわーっとあくびをして、目が覚めた。いやいや、目が覚めたではない。
私はなぜ自室のベッドで寝ているのか?
ガサガサ動いている音に気が付いたのか、ユリアがノックし中に入ってくる。
「お嬢様、おはようございます。よく眠っていらっしゃいましたね」
「ユ、ユリア。私は昨日デーヴィド様と……馬車に乗ったところまでは覚えてるんだけどその後の記憶がなくて」
「お嬢様はお酒を召し上がられて寝てしまわれたんです。デーヴィド様が横抱きにされて馬車からベッドまで運んでくださったのですよ」
ユリアは笑顔でさらっとそう言った。
穴があったら入りたいとはこのことだ。勝手にお酒を飲み、眠り、運ばせるなど淑女のすることではない。
私は髪をぐしゃぐしゃにしながら後悔した。
「ユリア、デーヴィド様は私に呆れていらっしゃらないかしら」
心配になり、不安そうにそう聞いてみる。
「まさか。デーヴィド様はお嬢様をずっと慈しんだ表情で見ておられましたわ。呆れるなどあり得ません」
それを聞いて少しホッとした。
そしてふと手首を見るとあざが消えている……
「ミシェル、起きたのか?」
お兄様がひょっこり私の部屋をのぞいている。
「おはようございます」
「おはよう。ミシェルと二人きりで話がしたいから、悪いけどみんな外で待っててくれる?」
そう言って人払いをした。
私は昨日のことを怒られるのだろう。
「昨日は色々あったみたいだな。たまたま父上が急な仕事で家を不在にしてたからよかったが、そうじゃなければ団長にはもう今後一切会わせない!と言われたり、彼が父上に半殺しにされる危険性もあったんだぞ」
「なんでですか?デーヴィド様がお父様に怒られることなどないですよね?迷惑かけたのは私ですし……」
お兄様ははぁ、と盛大にため息をついた。
「状況だけ見れば、娘に酒をすすめてわざと酔わせて、眠らせた……しかも手首にはあざがあり、彼が無理矢理お前に何かしようとした可能性もある」
「なっ!違いますっ!お酒は私が飲みたいと言ったのだし、手首のあざも彼がつけたのではありません」
「わかってる。俺は団長がそんな男でないことはわかっているが、世間一般にはそう思われると言うことをお前が自覚しろ。酒を飲むなとは言わないが、婚約者でもない男の前で眠るなどあり得ない」
「申し訳ありません」
「あざのことも聞いたから俺が治した。これはお前が悪いとしても守りきれなかった団長に責任があるから、俺が父上の代わりに殴っておいた」
「殴った!?」
私は驚いて大きな声をあげた。
「団長は父上に殴られる覚悟で、ミシェルを起こさず胸に抱いたまま当家へ入ってきたみたいだからな」
「なんで私を起こしてくださらなかったんでしょう?起きていたらこんな誤解はなく……」
「気持ちよさそうに寝ているお前を、起こすのが可哀想になったそうだ」
あの人もお前のことになると馬鹿だよな、と兄が言っている。
「母上は父上に黙っていてくれるそうだよ。使用人達にも昨夜のことは父上には伝えないようきつく言ってある」
「自分の不用意な行動で、外からはどうみられるのかを学びなさい。昨夜のことは充分反省しろ」
そう言い残し部屋を去って行った。
その後、お母様からもこってり怒られたが「でも観劇楽しめたようでよかったわね」と優しく頭を撫でて、「お父様に内緒にしてあげる私に感謝なさい」と悪戯っぽく笑われた。




