3 いきなりの求婚
「団長、申し訳ございません。私の父が貴方に無理矢理にお見合いを頼んだのでしょう?」
私は頭を下げて誠心誠意謝った。休みの日にこんなところで興味のない部下とお見合いをするなど、迷惑極まりない。
「俺が望んだ事だ」
「え?」
「君は……危険なんだ。男ばかりの騎士団の中でミシェル嬢は目立つ。このまま婚約者もいない状態では隊員達が君に手を出す可能性もある。君を守るためには俺が婚約者になるのが一番だ」
この人は部下を守るために婚約者になると言っているのか。その上司としての優しさはありがたいが、あり得なさすぎる。
「いや、その危険はないかと。お恥ずかしいですけど、私全く男性にもてないので」
自分で言って哀しくなるが、本当のことだ。いくら隊内で唯一の女であっても、手を出されるとは到底思えない。
「何も――わかっていないのか」
団長はぽそっと何か呟いたがよく聞き取れない。
「だから、婚約はお断りします。私生活のことまで団長にご迷惑かけられませんから」
「好きな男でもいるのか」
重たい低い声でそんなことを聞いてくる。急に圧をかけないでよ、この人こんなに怖かったっけ。
「いません」
私の返答を聞いて、団長はなぜか笑った。
「では決定だ」
何が決定なのかとぽかんと口が開いたままでいると、団長は私の前にスッと跪き手にキスをした。
「私と婚約してくれ」
「なっ!だ……だんちょ」
私は驚きと恥ずかしさでかあっと頬が染まる。その様子を見て団長は目を細めた。
「手へのキスで頬を染めるなど、ずいぶんと可愛らしい反応だな」
そう言われて、私は団長に揶揄われたのだと思い腹が立ち、そして哀しくなった。
「酷いっ。私が男性に慣れていないからと揶揄ったのですね」
握られたままだった手をパッと引き、団長をキッと睨みつけた。泣きたくないのに涙が溢れてくる。団長はわたしの様子を見て困ったような顔をしている。
「すまない、揶揄うつもりなどなかった――本当に君が可愛いと思ったのだ。もちろん、婚約も本気だ」
私の頬を団長の大きな手が包み、目の涙を指で拭ってくれた。
「やっぱり婚約はできません。私は本当に好きになった方と生涯を共にしたいのです」
「……私を好きになればいい」
「は?」
「簡単な話だ。婚約してから私のことを好きになればいい」
この人はいったい何を言っているのか。全然話が通じない。
「私はあなたを好きになりません!婚約もしませんから!!」
私は大声でそう言い、レストランの個室を後にした。